“北欧の至宝”マッツ・ミケルセンが魅せる、変態性と狂気…封印されてきた幻の傑作とは?
まともじゃない!狂気の聖職者をマッツが体現
『アダムズ・アップル』もまた、先の2本に負けず劣らずの“変”な作品で、旧約聖書の「ヨブ記」と「アダムの林檎」の逸話がベースになっている。仮釈放されたばかりのネオナチの男アダムが、田舎の教会で更生プログラムを受けることに。しかし、そこの指導役の聖職者や入所者たちは、人生の道標を失ったまともじゃない人ばかりだった。
マッツは聖職者のイヴァン役で登場する。髪型や服装は整えられているが、教会や信仰に執着し、目の前で良くないことが起きてもそれを見て見ぬふりする極端なポジティブシンキングを貫いている。しかも自分の意見は曲げず、ことあるごとに他人に議論をふっかけ、反論されようものなら「失敬な!」と相手の口をさえぎってしまう。そんな彼をマッツはひょうひょうと怪演し、アダムに暴行されボコボコになっても、それを気にも止めない様子がかなり“ヤバい”人物なのだと感じさせる。
ほかの登場人物も、手クセの悪いアルコール依存症の巨漢の男やキレやすい中東系の移民の男など変わった人物ばかりで、ネオナチのアダムが一番まともそうに見える構図が笑いを誘う。一方で、イヴァンには悲惨な人生を歩んできたという過去があり、数々の試練や不条理の果てに、物語が意外な感動を呼び起こすことにもつながっている。
マッツの魅力をもっとも知り尽くしている男、アナス・トマス・イェンセン
マッツに変人ばかりを演じさせてきたイェンセン。しかし、彼が脚本を務めたマッツ出演作には、デンマークの名匠スサンネ・ビアの『しあわせな孤独』(02)や『アフター・ウェディング』(06)、北欧産西部劇『悪党に粛清を』(14)など良作や名作も多く、マッツの魅力をもっとも知り尽くしている人物と言っても過言ではない。
今後の二人の活動では、イェンセンの監督最新作『Retfærdighedens ryttere』でマッツが主演を務めており、本国デンマークで2020年末に公開される予定とのこと。最新作への期待も高めつつ、『アダムズ・アップル』などでイェンセンにしか出せない、マッツの良い意味での変態性や狂気を堪能してほしい。
文/平尾嘉浩(トライワークス)
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発売・販売元:M&M Productions