行定勲が語る、新しい映画のあり方と『窮鼠はチーズの夢を見る』に込めた想い
“行定勲が撮ってきた恋愛映画”の延長線にあり、最新形。そこにはやはり挑戦があった。「この映画はマジョリティである、いわゆるノンケの男(恭一)が、マイノリティ(今ヶ瀬)の気持ちを受け入れる物語で、そこにある“愛”を浮き彫りにしたかった。そう考えた時に、社会が2人に対して意見を言う必要がないんです。むしろ主人公の恭一を巡って対立する女と男がいて、マジョリティの男が自分の恋愛相手として女よりも男を選ぶということをきちんと描けるかが、この作品の勝負でした」
日本における恋愛の定義。そこにも行定監督は言及する。「大人の世界でこれほどに恋情の移り変わりを丁寧に描く映画は、あまりないんじゃないかと。ふたりの間にはいろいろなことが自然に起きて、その出来事すべてが、きっかけとなって次につながっていく。そして、次につながった瞬間に、さらにボルテージが上がっていく。ただ、これを“男女”の関係で描くと凡庸で、観る側にも忍耐が必要になるんです。すでに自分たちが知っている・わかっている恋愛のプロセスを見せられるわけですから。だからラブストーリーは軽視されるんです。そして、この『窮鼠~』を通じて、“恋愛後進国”である日本に、同性同士の恋愛は“ふつうのこと”なんだよと、きちんと言いたい」
恭一と今ヶ瀬の“ふつう”の恋愛を、映画館で観る――行定監督の想いが詰まったこの一本を、真正面から堪能してほしい。
取材・文/編集部
作品情報へ