『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』片渕須直監督が読者の疑問に次々回答!名作誕生の“秘密”が明らかに - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』片渕須直監督が読者の疑問に次々回答!名作誕生の“秘密”が明らかに

インタビュー

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』片渕須直監督が読者の疑問に次々回答!名作誕生の“秘密”が明らかに

「バケモンは子どもにしか見えていないのでしょうか。すれ違う親子連れの女の子がバケモンの方を指さしてなにか言っていましたが、なんと言っていたのでしょうか」(60代・男性)

周作との出会いを自由に想像してみるのもおもしろい
周作との出会いを自由に想像してみるのもおもしろい[c]2019こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会

「あの女の子は『なんかおりんさる』とか、そんなことを言ってますね。そのセリフも録ったんですよ。
バケモンは子どもにしか見えないのか、もっというと、あれはすずさんがでっちあげた話かもしれないという気もしますよね。すずさんの右手が絵を描いているなかで、ああいったお話ができてしまって、それを(妹の)すみちゃんに聞かせている。すずさんと(夫の)周作さんの出会いも、本当は全然違った、もっと現実的なものだったのでしょうけれど、子どものすずさんだからああしたお話が作れた。
そうした『想像力』はしかし、『戦争』という現実すぎる現実の前ではまったく無力です。なので、バケモンも登場する機会を失ってしまいます」

「幼少期の鉛筆をもらった時や、旦那が初めて挨拶に来て道を案内するときなど、中世の絵画のような構図の美しいカットが印象的でした。すずさんが結婚してからそのカットがなくなりましたが、すずさんの“恋のハイライト”だったのでしょうか?」(20代・男性)

「恋のハイライトだったかはわかりませんが、すずさんが大人になっていくにつれて、戦争が、すずさんが子どものころに持っていた想像力を塞いでしまっていることは確かです。戦争が終わるまで、バケモンも登場しない。すずさんが戦時中に描いているのは、軍艦や魚といったもので、お話のある絵は描いていないんです。
僕らのような作り手としては、『子どもらしい想像力こそ、至高のものだ』と言いたいところなんですが、戦争はそれを遥かに上回ってしまう。日常生活はもちろん、『心のなかのひみつ』のような想像力をも抑え込んで蓋をしてしまう。そこからのすずさんは、ひたすら日々をこなしていくだけになってしまうんです。
そして戦争が終わった時には、こんどはすずさんの右手がなくなってしまっています。絵を描いていた右手、想像力の源だった右手をです。すずさんはそれまで、口でなにかを語る人ではなかったけれど、それからは絵で描くのではなく、言葉で表現しないといけない人になります。自分のなかに想像力が復活してきたとしても、彼女は前のようにそれを絵に描いて表出することができない。自分の口で言葉にしていろいろなことをしゃべる人になっていかざるを得ない。それをすずさんの進歩というのかどうかしらないけれど、以前とは確実に違う人になったすずさんです」

「原作ではすずさんの袖をつかんで眠る戦災孤児に、すずさんが『あんた、広島でよう生きとってくれんさったね』というセリフがあったのですが、映画ではカットされていました。どのような意図があって削除されたのかお教えいただければと思います」(50代・男性)

「僕は、すずさんはたまたま出会った家族がない子どもを、ごく自然に家に連れて帰ってくるのだろう、と思っていて。気がついたら家にこの子がいた、という感じ。『広島でよう生きとってくれんさったね』と言うとしたら、もっと後。あの子が家に居ついて、ともにする生活を積み重ねたあとになってからなのではないか、と思いました。家で生活を一緒にしているなかで、『気がついたらあなたがここにいた。それは奇跡的な喜びだね』と、すずさんが感じたその時なのではないかと。
映画と漫画では時間経過の描き方も違いますし、映画ではあのセリフ自体は言っていませんが、エンディングの一緒に洋服を縫う場面で、その想いを表現しているとも言えます。
映画でそのセリフがなかったからといって、“なかった”のではなく、きっとどこかで言っている。“なくなった”と思わないでいただけると、うれしいです」

「エンディングのラスト、暗闇の中で振られる白い右手。物語が観客に別れを告げ、万感の余韻を残す素晴らしい終わりだと思いますが、どのようにして考えだされ、産みだされたのでしょうか」(40代・男性)

右手を失ってしまうすず
右手を失ってしまうすず[c]2019こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会

「原作の一番最後では、右手がセリフを話しているんです。『かゆくてもかいてあげられない。時々は思い出してくれ』みたいなことを言っていて、最後に『草々』と言っている。これは『バイバイ』という意味ですよね。当初は、これをすべてセリフにして、誰かに演じてもらおうと思っていたんです。
この物語を映画にしたいと思った最初の時期、2010年8月にたまたまこうの史代さんの原画展が広島であって、そこでこの終盤の原稿を眺めながら、『これはどんな声なんだろう、どんな声なんだろう』『すずさん役と同じ人の声で話したらいいのか、それは違うのか』と考えていて。その日のうちに、コトリンゴさんに歌ってもらえばいいんだと思い浮かんだ。
2016年、エンディングを作るときになって、右手の言葉は全部歌になったので、『草々』は “手を振る”という表現を使うことにしました。『時々は思い出してくれ』という思いを込めて、手を振っています。今度の新しい映画では、『思い出す』なかに、リンさんやテルちゃんたちのことも入ってきていますね」


■商品概要
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』Blu-ray特装限定版
価格:9,800円(税抜)
発売中
収録時間:470分【本編DISC】182分(本編168分+映像特典14分)、【特典DISC】288分
スペック:【本編DISC】ドルビーTrueHD(5.1ch)・リニアPCM(ステレオ)/AVC/BD50G/16:9<1080p High Definition>・一部16:9<1080i High Definition>、バリアフリー日本語字幕付(ON・OFF可能)
【特典DISC】リニアPCM(ステレオ・一部モノラル)/AVC/BD50G/16:9<1080i High Definition>

封入特典:●特製ブックレット
     ●特典DISC
     ・ドキュメンタリー映画『<片隅>たちと生きる 監督・片渕須直の仕事』
      (2019年公開/監督:山田礼於/95分)
     ・昭和のくらし博物館特別展映画『この世界の片隅に』~すずさんのおうち展
     ・練馬アニメカーニバル2018『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』公開2ヶ月前トーク
     ・練馬アニメカーニバル2019『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』公開1ヶ月前トーク
     ・公開前劇場トーク ・東京国際映画祭2019 ・広島国際映画祭2019
     ・『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』スペシャルライブ付先行試写会
     ・劇場舞台挨拶集 ・片渕須直×町山智浩トークイベント
映像特典:特報、 特報2、 劇場予告編、 TV SPOT、 のん&岩井七世 スペシャルインタビュー&アフレコ映像、ノンクレジットエンディング
仕様:●浦谷千恵(監督補・画面構成)描き下ろしイラスト仕様特製収納ケース
   ●特製インナージャケット
※Blu-ray(通常版)[4,800円/税抜]、 DVD[3,800円/税抜]も発売中です。
※映像特典は 3アイテム共通です。

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