『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』片渕須直監督が読者の疑問に次々回答!名作誕生の“秘密”が明らかに

インタビュー

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』片渕須直監督が読者の疑問に次々回答!名作誕生の“秘密”が明らかに

「緻密な現地取材や時代考証を重ねる監督の姿勢に、感銘を受けています。リサーチによって、2016年版と変更したシーンなどがあれば教えてください」(30代・男性)

当時の街並みがリアルに描かれている
当時の街並みがリアルに描かれている[c]2019こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会

「ちょっとずつ表現が変わっているシーンはありますね。すずさんが中島本町を歩いているシーンで、右側に大津屋さんというお店があるんですが、そのお店が変わっています。実は参考していた写真があったんですが、同じ写真でトリミングされていない、解像度のいいものが出てきて、お店の様子がよくわかるようになって(笑)。すると昔ふうの日本建築ではなく、アール・デコのようなモダンなデザインの建物だったことがわかったんです。
当時の広島の商業学校の生徒が書いたレポートを読むと、『商店街の看板の文字は、右から左に書いてあるものや筆書きなどは、もう古い』とか『ネオンがあるのが新しいが、かといって赤一色のネオンではもう古い』などと書いてあって、戦争前には近代的なものを目指そうとする社会があったんだなということがわかります。

包丁の形の変化にも注目だ
包丁の形の変化にも注目だ[c]2019こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会

ああ、そうだ。それから、包丁も変えています。前回は菜切り包丁のようなものを描いていたんですが、呉では出刃包丁と文化包丁の間のような形の伊予包丁を使っていたのだと知って、それだったら直そうと(笑)。包丁のカット、すべてを直しています」

「執念とも思えるほどの、徹底したリサーチを続けられています。その原動力とは、どのようなものでしょうか」(40代・女性)

戦艦大和の入港も、史実や天候など緻密な取材をもとに描かれた
戦艦大和の入港も、史実や天候など緻密な取材をもとに描かれた[c]2019こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会

「『そこに描かれているものは本当にあったものなんだ』と、自分たちが信じたいということなんですよね。自分たちがそこにあったものを信じられれば、『その時代がこういう時代だったんだ』というところにアプローチしていけるように思ったんです。書き割りのような風景ではなく、ちゃんと奥行きがあって、そのなかに入っていけるものを描きたいと思っていました。
この世界の片隅に』は一つの物語ではありますが、タイムマシーンのようなもの。この映画を通して、あの時代に入り、そこで見たものの意味を理解してゆく。自分のなかにあるイメージだけで描いていたら、いつまでも向こうの時代が遠いままになってしまう。『こういうものがあった』とわかったことをいっぱい詰め込んで出来上がった世界ならば、『これは本当にあったことなんだ』と納得できると思います」

「広島国際映画祭で今年お亡くなりになられた大林宣彦監督とご一緒にいられた場面を見ました。大林監督も反戦映画を残されていますが、ご覧になっていますでしょうか」(50代・男性)

まったく新たな戦争映画として、幅広い世代に支持された本作
まったく新たな戦争映画として、幅広い世代に支持された本作[c]2019こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会

「大林監督は昭和13年生まれでいらっしゃいますので、7歳で終戦を迎えています。そのために、“その時代を生きていた”という気持ちのようなものが、大林監督の映像にも出てきているのかなと思います。昭和16年生まれの富野由悠季さんと対談をした時に印象的なことがあって。当時、お母さんが婦人会活動をやっていて、富野さんは『あれは戦争に加担しているんじゃないか』と苦しく思われていたようなんです。でも映画のなかのすずさんの姿を見て、『自分の母親を許してもらったみたいな気がした』とおっしゃっていました。戦後もずっとわだかまっていたものが、理解できたと。どこかで『戦時中の大人たちのことをどのように見たらいいのか』『自分たちはその人たちの子どもなんだ』という気持ちと、相対して生きていらっしゃるんだと思うんです。
大林監督も同じように、自分が属していた世界をどのように見るのかと、『自分の一部としての戦争』と闘って、映画を作っていらっしゃったのでないかと感じています。戦争というのは、人を殺めたり、傷つけたりするだけではなく、なにもしなかった人にさえ罪悪感を残すものなんです」

「次回作として、疫病が流行っている平安時代の物語を構想されているとニュースで読みましたが、内容はメッセージ性の強いものになっているのでしょうか。それとも放射能汚染を描いたゴジラのように、エンタメ作品としての色が強いものになっているのでしょうか?また、公開はいつごろを予定されているのでしょう」(30代・男性)

丁寧かつ、熱く、質問に答えてくれた
丁寧かつ、熱く、質問に答えてくれた撮影/成田おり枝

「『この世界の片隅に』では当時のあらゆるディテールを自分たちが理解することで、戦時中に行けるような感じがした。すると、今度は千年前にも行けるわけですよね。そこを実存として信じられる世界として描き、『この世界は、自分たちにも関係があるはずだ』と感じられるものにはしたいと思っています。それはまた、いまの世の中に生きるわれわれにも跳ね返ってくるはずなのだと信じつつ。
公開時期に関しては、まったくわかりません(苦笑)。ちょっとずつ現場が出来上がってきて、まだ脚本も書き始めたばかりです。セリフやト書きをひとつずつ書くなかで、新しい映画のテイストが決まってゆきます。なので、詳しいことはあまり言えません。どんな映画になるのだろうかと、自分たちが期待している最中です。また今後の展開にぜひご期待ください」



本日発売されたBlu-ray&DVDは全部で3種類。浦谷千恵(監督補・画面構成)描き下ろしイラスト仕様特製収納ケース付きのBlu-ray特装限定版には、片渕監督の創作の日々を追ったドキュメンタリー映画や、片渕監督と映画評論家の町山智浩によるトークイベントの模様など、288分に及ぶ映像特典を収録した特典ディスク、さらには特製豪華ブックレットが封入。

またBlu-ray通常版&DVDには8ページのブックレットが封入されるほか、各商品に共通して、のんと岩井七世のスペシャルインタビュー&アフレコ映像やノンクレジットエンディングなど14分の映像特典も収録されている。
何度も観て本インタビューの内容を検証するのはもちろん、未見の家族や大切な人と観るのも、美麗な装丁を眺めるのもよし。多くの人の心を震わせた本作の魅力を、パッケージを入手して隅々まで味わい尽くしてほしい。

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』のBlu-ray&DVDは、好評発売中!
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』のBlu-ray&DVDは、好評発売中![c]2019こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会

取材・文/成田おり枝


■商品概要
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』Blu-ray特装限定版
価格:9,800円(税抜)
発売中
収録時間:470分【本編DISC】182分(本編168分+映像特典14分)、【特典DISC】288分
スペック:【本編DISC】ドルビーTrueHD(5.1ch)・リニアPCM(ステレオ)/AVC/BD50G/16:9<1080p High Definition>・一部16:9<1080i High Definition>、バリアフリー日本語字幕付(ON・OFF可能)
【特典DISC】リニアPCM(ステレオ・一部モノラル)/AVC/BD50G/16:9<1080i High Definition>

封入特典:●特製ブックレット
     ●特典DISC
     ・ドキュメンタリー映画『<片隅>たちと生きる 監督・片渕須直の仕事』
      (2019年公開/監督:山田礼於/95分)
     ・昭和のくらし博物館特別展映画『この世界の片隅に』~すずさんのおうち展
     ・練馬アニメカーニバル2018『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』公開2ヶ月前トーク
     ・練馬アニメカーニバル2019『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』公開1ヶ月前トーク
     ・公開前劇場トーク ・東京国際映画祭2019 ・広島国際映画祭2019
     ・『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』スペシャルライブ付先行試写会
     ・劇場舞台挨拶集 ・片渕須直×町山智浩トークイベント
映像特典:特報、 特報2、 劇場予告編、 TV SPOT、 のん&岩井七世 スペシャルインタビュー&アフレコ映像、ノンクレジットエンディング
仕様:●浦谷千恵(監督補・画面構成)描き下ろしイラスト仕様特製収納ケース
   ●特製インナージャケット
※Blu-ray(通常版)[4,800円/税抜]、 DVD[3,800円/税抜]も発売中です。
※映像特典は 3アイテム共通です。

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