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力強く生きる女性たちを描いた作品からヨーロッパ映画のいまを読み解く

コラム

力強く生きる女性たちを描いた作品からヨーロッパ映画のいまを読み解く

まるで青春映画!?生きることに嫌気がさしたおばあちゃんの人生

そして最後に紹介するのは、ドイツ映画『シュテルン、過激な90歳』。本作の主人公は、ナチスドイツのホロコーストにより、一家を殺害され、ベルリンで90歳まで長生きしている女性シュテルン(アフーヴァ・ゾンマーフェルト)。彼女はこれ以上生きることに嫌気がさして、良い自殺の方法を見つけようとしている過激なおばあちゃんだ。同時に、孫娘やその友達、バーの若い店員などと遊ぶのも日課となっている。

ベルリンで90歳まで長生きしている女性、シュテルンの人生を描いた『シュテルン、過激な90歳』
ベルリンで90歳まで長生きしている女性、シュテルンの人生を描いた『シュテルン、過激な90歳』[c]Adrian Campean A+A Produktion.

列車の線路や地べたに寝っ転がったり、マリファナの吸い心地を試したり、あちこちを彷徨ったり、銃を手に入れたりと、90歳ながら、シュテルンのやっていることは無軌道な若者そのもの。その内容は、まるで危うい年代を描く青春映画である。

彼女は、なぜ周囲の若者に受け入れられるほどに、若者のような精神でいられるのか。それは、大人たちや権力者が作りだした世の中のしがらみから抜けだして、自由になりたいと願う感性が、若い世代と感覚的につながるところがあるのではないか。そして、この感性を描く限り、映画は“青春映画”の要素を背負うのである。

シュテルンの行動は無軌道な若者そのもの!?
シュテルンの行動は無軌道な若者そのもの!?[c]Adrian Campean A+A Produktion.

また、ホロコーストの生き残りである彼女だからこそ訴えられる、あまりにも重いメッセージが、彼女が歌うジャズのスタンダード曲「サマータイム」の源流にある、アフリカ系の人々が受けてきた悲しみと怒りの歴史と合流し、見る者すべての心に響くだろう。

女性が主人公であることに大きな意味を持たせないヨーロッパの現状

今回、紹介した3作品に共通するのは、現実の厳しさや残酷さと直面し、打ちひしがれそうになりながらも、前に進もうとする女性たちの姿だ。

彼女たちは決して“女性ならではの悩み”に直面しているわけではなく、すべての性別にあり得る状況に、自らの能力や感性、意志で対応していく。その意味で、これらの作品は、従来“女性映画”といわれたような、限定された性別の観客を意識したものではなくなっているのが特徴なのだ。

厳しい状況のなかでも前に進もうとする主人公たちの姿は性別関係なく人の心を打つ
厳しい状況のなかでも前に進もうとする主人公たちの姿は性別関係なく人の心を打つ[c]Motlys

もちろん、いまだに男女格差が世界にはびこる以上、女性にまつわる問題を扱った作品が作られることも必要ではある。しかし、主人公が女性であることに大きな意味が置かれなくなっている映画が増えているヨーロッパの現状は、社会的なジェンダーギャップ解消の意味で、そして映画が新しい表現を獲得していくということでも歓迎すべきものだろう。

世界経済フォーラムが公表した、「ジェンダー・ギャップ指数2020」によると、今回紹介した作品の製作国であるノルウェー(2位)、スウェーデン(4位)、ドイツ(10位)は、いずれも男女の格差が少ない国として10位以内に収まっている。だから、121位という不名誉な結果となった日本と比べ、市民の意識が異なるのはもちろん、おしなべて映画における社会の表現も、必然的に新しいものとなる。

世界の作品を観ることで、ただ楽しむだけではなく、周囲や自分の国にはない価値観を学び、自分の意識を変えることができる。そして、世界や社会を新しい目で見ることができるのである。今回紹介した3作品は、十分そのきっかけとなり得る映画でもあるのだ。

日本でなかなか観ることの出来ない国の作品から新たな価値観を学ぶチャンス
日本でなかなか観ることの出来ない国の作品から新たな価値観を学ぶチャンス[c]Adrian Campean A+A Produktion.

文/小野寺系


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