『フェアウェル』オークワフィナ、スターダムを駆け上がる。『オーシャンズ8』『ジュマンジ』など引っ張りだこ
全米でたった4館からスタートしたにもかかわらず、公開3週目に全米TOP10入りをした異例の大ヒット作『フェアウェル』(公開中)。この驚異的な勢いを加速させたのは、主演のオークワフィナの存在だ。役者のみならずラッパーとしても才能を発揮し、注目を集めている彼女について探っていきたい。
まず、本作『フェアウェル』が話題になったきっかけは、2019年サンダンス映画祭のワールドプレミア。当時まだ無名だった中国系アメリカ人、ルル・ワン監督の実体験を基にした本作の配給権を巡って、名だたる映画会社による争奪戦が勃発したのだ(「A24」が獲得)。その話題作のストーリーは、やさしい“嘘”から始まる家族の物語。ニューヨークで暮らすビリーは、いとこの結婚式に出席するため久しぶりに中国へ帰郷する。しかし、本当の目的は余命3か月と宣告された大好きな祖母ナイナイに会うため。ナイナイ本人に病のことを伝えないと決めた親戚一同と共に、悲しみを押し殺して嘘をつくのだった。
コミカルな演技が評価され、話題作へ立て続けに出演!
主人公のビリーを演じたのが、『オーシャンズ8』(18)で凄腕のスリ師役として大女優たちと肩を並べ、『クレイジー・リッチ!』(18)でもキャラの濃い主人公の親友役でインパクトを残してきたオークワフィナ。2012年にYouTubeに投稿した「My Vag」という女性器をテーマにしたラップがきっかけで、世間にその名が知られるようになり、2014年にはアルバム「Yellow Ranger」も発売するなど、もともとはラッパーとしてキャリアをスタートさせてきた。そして、自身の楽曲のミュージックビデオへの出演を経て、セス・ローゲン主演のコメディ『ネイバーズ2』(16)で本格的に女優デビュー。その後は、「Mary + Jane」「Future Man」といったテレビドラマへの出演を重ねて着実にキャリアを築いてきた。
そんな彼女の転機となったのが、オリビア・ミルチ監督作『エンド・オブ・ハイスクール』(18)。本作を観た『ハンガー・ゲーム』(12)などのゲイリー・ロスが、自身が監督を務める『オーシャンズ8』にオークワフィナを抜擢。人気シリーズの最新作にもかかわらず、オーディションなしで出演が決まったという。このビッグタイトルで一躍その名を知らしめ、『クレイジー・リッチ!』ではユニークなキャラクターを活かしたコミカルなかけ合いを披露。さらに、大ヒットシリーズの続編『ジュマンジ/ネクスト・レベル』(19)にも参加し、ドウェイン・ジョンソン、ケヴィン・ハート、ジャック・ブラック、カレン・ギランといった個性の強いキャストの中でも、確かな存在感を発揮してきた。
自身の内面やルーツにも向き合った『フェアウェル』のアプローチ
クセの強い役を演じることも多いオークワフィナだが、『フェアウェル』では強烈なキャラは封印。おばあちゃんが大好きで嘘をつくことが苦手な女性を丁寧に演じている。ニューヨークで育ったアジア系女性という設定もオークワフィナ本人と共通することから、文化の違いに揺れる心情をリアルに表現。その演技力の高さが評価されて、第77回ゴールデングローブ賞の主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞し、アジア系女優として初快挙を成し遂げた。
ワン監督の経験がベースではあるが、中国系アメリカ人の父親と韓国系アメリカ人の母親を持つオークワフィナも、4歳の時に母親を亡くし、父親と祖母に育てられるなど、ビリーと似通った部分がある。公に知られる彼女のキャラクターとは違い、内向的で繊細なビリーを演じたことについて、オークワフィナは「私にとって大きな意味を持つ挑戦でした。自分ならどうするかを問いかけたら、ビリーの微妙な感情が湧いてきました」と振り返る。
さらに、「アメリカ人であることと中国人であること、悲しみと祝いごと、自分の思いを告げることとなにもしないでいること、ビリーはいつもそういった二つの世界を行き来しながら立ち往生してしまうのです。本当に興味深い探求になりました」とも語っており、ほかの出演作とは異なる、自身の内面やルーツにも向き合うアプローチだったことがうかがえる。
今後もニコール・キッドマン、メリル・ストリープ共演の『The Prom』(20)や、自身の名前をタイトルにしたテレビシリーズ「Awkwafina Is Nora from Queens」も待機しているオークワフィナ。才能あふれる次世代女優のさらなる活躍に期待したい!
文/トライワークス