松本幸四郎と市川染五郎が語る、親子共演の三谷かぶきと、今後の展望

インタビュー

松本幸四郎と市川染五郎が語る、親子共演の三谷かぶきと、今後の展望

「教えてくれる人が身近にいるってことは、幸せなことだと思います」(染五郎)

父親について語った市川染五郎
撮影/黒羽政士

また、歌舞伎を映像で楽しむシネマ歌舞伎の魅力について、幸四郎は「音や演出の切り取り方で、とてもドラマが明確になる気がします」とコメント。「公演は1年前ですが、実際に上演したものを形に残せるというのは、不思議な感覚です。明らかにいまの自分と1年間の自分とは違うわけですし、この先、10年経ったとしても、当時の自分を観ることができる。ああ、舞台を残す方法ができちゃったのか!という感じです」。

そう話す一方で、幸四郎は「生には生の魅力があります」と言う。「その日のその時間、その場所に行くという行為自体が、1つのイベントだと思うので、それは今後もなくなってほしくないです。舞台に限らず、コンサートや美術館などに出かけることもそうです。かたや、配信を含めた映像を観ることも、もはや日常の一部になっていますが、僕は今後そこにも、歌舞伎がソフトとして存在していってほしいと思います」。

息子について語った松本幸四郎
息子について語った松本幸四郎撮影/黒羽政士

染五郎も「僕は、自分の話になってしまいますが、今回の舞台でとても大きな経験ができたし、いろんなことを吸収できたので、その舞台をシネマ歌舞伎として残すことができるのは、純粋にうれしいという気持ちです」と語った。

ちなみに、歌舞伎以外のプライベートについては、なにか幸四郎から染五郎にアドバイスをすることがあるのか?と尋ねると、幸四郎は「ないよね?」と染五郎をのぞき込み「僕は、そんなことを言えるような人間ではないですから」と恐縮する。

染五郎は父親について「すごく変わっている」と公言しているが、改めてどこが変わっているのか?と尋ねると「全部です。説明するのは無理です。変わりすぎているから」とバッサリ。

幸四郎は苦笑いしつつ「芝居に関しては、自分が教わったことや経験したこと、感じたことは全部、息子に話しますが」と真摯な表情に切り替えてこう言った。
「いまはとにかく技を身につけることがとても大事な時期で、体を痛めつけていくしかないとも思っています。コロナ禍で、なかなか舞台が難しい分、稽古はできますし、逆に稽古だから壊せるというか、声がつぶれてもいいんじゃないかと思ったりもします。つまり、どれだけやれば体が痛くて動けなくなるのかを、体に覚えさせることができる機会なので」

染五郎も「そうやって教えてくれる人が身近にいるってことは、幸せなことだと思います」静かにうなずいた。

『 シネマ歌舞伎 三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち』は10月2日(金)より全国公開中
『 シネマ歌舞伎 三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち』は10月2日(金)より全国公開中[c]松竹株式会社

また、歌舞伎だけではなく、映画やドラマでも活躍している2人。幸四郎は『阿修羅城の瞳』『蝉しぐれ』で2005年に日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞しているし、染五郎も声優として主演を務めたアニメ映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』(近日公開予定)が話題となった。今後の抱負について尋ねると、幸四郎は「時代劇をやりたい」と言う。

「時代劇は何本かやらせてもらいましたが、刀が嫌いな役や、弱い役が多かったので、チャンバラ映画で、しっかりと殺陣をやりたいです。例えば、悪い人をひたすら斬る役とかを、そろそろやってみたいです」。

染五郎は、「歌舞伎もそうですが、悪役をまだやったことがないので、いつかやってみたいです」と言う。幸四郎が演じた『女殺油地獄』の主人公、河内屋与兵衛のような“とことん悪”にも興味があるそうなので、いつか染五郎バージョンもぜひ観てみたいものだ。

白鸚、幸四郎、染五郎と、高麗屋3人の魅力を、本作の監修も担当した三谷がめいっぱい引きだした『シネマ歌舞伎 三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち』。こちらは、ぜひ大きなスクリーンでご覧いただきたい。

取材・文/山崎伸子

関連作品