園子温監督と真利子哲也監督が語る、オムニバス映画『緊急事態宣言』の舞台裏
「『MAYDAY』はオンラインの打ち合わせを重ねて作り上げた作品」(真利子)
真利子監督の『MAYDAY』は、世界14か国、21都市の人々が関わった異色作で、コロナ禍で過ごす各国の人々が織りなす日常が描かれており、真利子監督は、現地の人々とリモートでやりとりをし、撮ってもらった映像を編集して一本にまとめあげた。
――バラエティーに富んだ映像ですが、なにげないリアルな日常が伝わってきました。各国から送られてきた映像を観た時、真利子監督はどう思いましたか?
真利子「アメリカに一年間滞在していて、今年の3月半ばに帰国してすぐにコロナで世界中が一変したので、友人たちがどうされているのか、気になっていたんです。報道を見て想像していたことだけではないことを知れて、世界中が同じ状況に生きていることを実感できました」
園「どういう仲間で撮ったの?映画祭で知り合った仲間たち?」
真利子「去年、シカゴ国際映画祭で審査員をした時に知り合った人たちに声をかけて、そこからその友人まで広がって、一般の学生やご家族に混じって、パフォーマーとかミュージシャンとか、普段からメディアに関わる人もいます」
園「けっこう幅広いよね。中国の方はどういう流れで?」
真利子「ミーナ・チェンというドキュメンタリーの監督です。北京で自分の作品を上映してくれた時に知り合ったプロデューサーが、ミーナさんを紹介してくれて、こちらの意図に賛同してくれて、彼女が置かれている状況の映像を送ってもらいました」
――真利子監督から「こういう風景を撮ってほしい」とリクエストされたのですか?
真利子「はじめにオンラインで話し合いしてから撮影してもらっています。ミーナさんは入院していたお父さんがコロナの患者が多くなって一時退院するというのでその風景を、NYのロドリゴ夫妻は俳優で、ちょうど子どもができたばかりで、『車を買って、おばあちゃん宅に行くつもりだ』という話を聞いたので、そのやり取りを撮ってくださいと。基本、その人の状況の中で撮ってもらうのを頼んでいるので、カメラを持ってる人はそれを使ってますが、スマホで撮られているのが多いですね」
――東京パートは、岩瀬亮さんと内田慈さんが出演されています。お風呂に入るシーンが印象的でした。
真利子「岩瀬亮さんと内田慈さんは実際に夫婦ですが、役者として、この作品だからこその挑戦をしてくれました。2人とオンラインで話していて、それまでは忙しく生活していたのが、コロナの自粛期間が夫婦で対話する期間になったということを話されていて、そこで『ふれあいについてなにかをやりましょう。2人でお風呂に入るってどうだろう』というアイディアが出てきました。あの頃は接触禁止とか距離を取れとか、世間にギスギスした空気が流れていた頃で、普段だったらおかしくないことも忘れていたことに気付かされました」
――東京パートでは、真利子さんの演出が入っているのですか?
真利子「他の国と同じで、現場に行かずに、オンラインの打ち合わせを重ねました」
園「僕は、うちの奥さんと一緒に観ていたんですが、ブルックリンの夫婦の車を買う買わないのやりとりが、うちとすごくシンクロしていて、世界中の家庭で同じような問題が話されているんだなと、2人で驚きました」
真利子「どこの国もこちらが演出している訳ではないのに、カメラを通して家族を覗くと、いつも女性がしっかりしていますね(笑)」
園「女性は子どもを守りたいという想いが強いのかもしれない。原発の時も、福島で夫妻の食い違いがあったんです。旦那は福島にいたいのに、奥さんが『なにを言ってるの』と言って離婚しちゃうケースがありました」
――園監督は、3.11後に福島を取材され、その声を反映した『希望の国』でも、そういった家族を描いていましたね。
園「3.11後もそうでしたが、うちも今回のコロナを含め、両方とも奥さんが厳しくて。でも、そのバランスでいいのかなと。男はちょっと適当な感じで、女子が強いほうが」