富田克也&相澤虎之助とアピチャッポン・ウィーラセタクン監督が語り合う、“国境を越えた映画づくり”の秘訣
「コロナを経験したから、色やその価値の貴重さに気付けた」(ウィーラセタクン)
ウィーラセタクン「このコロナ禍では、非常に価値のある貴重な時間を過ごしていました。家にいて、昆虫や植物を撮ったりして短編映画をいっぱい作りました。読書もしましたし、次回作を考える上で、コロナがどのように反映されていくか考えましたね。コロナ後の映画についても、大きく変わるようなことはないと思います。人間は忘れっぽいので、落ち着いた頃にまた旅に出るでしょう。でも大きなスクリーンで観るという行為には意味を持つことになった。Netflixや小さな画面で観るのも飽き飽きしているでしょう。それなら自然を観察するほうがいいなと思いますね。一昨日久しぶりに映画館に行き、ウォン・カーウァイ監督の『花様年華』のデジタル・リマスター版を観たんですが、とても美しかったです。コロナを経験したから、色やその価値の貴重さに気付けたのだと思います」
富田「僕はいま、日本の山梨という田舎に住んでいるんですけど、コロナで自然を見直すことになりましたね。ずっと釣りをしていて、釣りのことしか考えられなくなったので、僕たちの次回作は釣り映画になると思います(笑)。僕たち空族が作るので、狂った釣り映画になると思います」
相澤「僕も釣りをしていましたね、次の釣り映画に向けて(笑)。ただ僕は東京に住んでいるので、都会の川で釣りをしていましたが自然と触れ合う機会は確かに増えました。僕たちの次の映画には必ずその要素が入ってくると思います」
ウィーラセタクン「なにか変化は感じましたか?魚が増えたりとか、釣り人が増えたりとか」
富田「僕の釣り仲間が78歳のおじいさんなので、日本の高齢化社会をよくあらわしていると思います。僕の方が体力があると思って山についていくと、圧倒的におじいさんの方がすごくて、命がいくつあっても足りないと感じるほどです(笑)。山に適応してきたおじいさんたちの世代を見直す機会にもなりましたね。魚とお姫様が滝壺で交尾するあなたの映画(『ブンミおじさんの森』)に影響されているので、とんでもない釣り映画ができると思いますよ!』
ウィーラセタクン「それは撮影するのが大変ですからお勧めしませんよ」
富田「大変だったんですか?」
ウィーラセタクン「とても大変でした(苦笑)」
富田「今度撮り方を教えてくださいね。そして釣りも一緒にいきましょう」
ウィーラセタクン「でも釣りってなにをすればいいやらと思うことがあるのです。仏教徒なので食べる気もしないので…」
富田「僕も『典座-TENZO-』を作って以降困るようになって…。蚊も叩けなくて悩んでいるぐらいなので、矛盾を感じながら釣りをしています(笑)」
文/久保田 和馬