「自意識過剰は、映画監督にとって死」と語るクリストファー・ノーランのインタビュー集が発売。日本版発行予定も

映画ニュース

「自意識過剰は、映画監督にとって死」と語るクリストファー・ノーランのインタビュー集が発売。日本版発行予定も

最新作『TENET テネット』が公開中のクリストファー・ノーラン監督のインタビューと、いままでのキャリアを総括した書籍がアメリカで発売になった。出版元によると、日本版も準備中とのこと。映画評論家でジャーナリストのトム・ショーン氏による何十時間にも及ぶノーランのインタビューと、彼の映画に繰り返し登場する時間、アイデンティティ、知覚、混沌、迷路、白昼夢などのテーマやモチーフを解説している。

【写真を見る】映像の魔術師クリストファー・ノーラン!桁違いの規模で行われた『ダンケルク』や『インセプション』の現場写真
【写真を見る】映像の魔術師クリストファー・ノーラン!桁違いの規模で行われた『ダンケルク』や『インセプション』の現場写真写真:SPLASH/アフロ

インタビューでは、英国出身のクリエイティブ・ディレクターの父親と、シカゴ出身でユナイテッド航空のフライト・アテンダントだった母親とともに、英米の文化に囲まれて育った幼少期について、彼のクリエイティビティを刺激したものの影響などを紐解いている。著者のショーン氏は、「クリスは彼の作品をめぐる批評的言説にうんざりしていて、批評家がヒッチコックの本質を捉えられなかったように、批評家が捉えられないものがあると感じていました。映画との関わりの深度を深める作業でした」と述べている。

クリストファー・ノーランのインタビューをまとめた書籍は日本版も準備中だそう
クリストファー・ノーランのインタビューをまとめた書籍は日本版も準備中だそう

この書籍の発売タイミングでロサンゼルス・タイムズのインタビューに答えたノーランは、企画が持ち上がった当初は懸念を感じていたと述べ、「謙遜ではなく、私はまだ自分の作風を正当化するのに十分な仕事をしていないと感じていました。また、批評軸を持った伝記という概念にも強い抵抗感を持っていたのです。ドイツの作家B・トレイヴンは『クリエイターのために存在すべき伝記は作品のみ』と言っています。これは理想的なシナリオだと思うのです。ですが結局、私は映画を多く監督しすぎていて、もう言い訳ができなくなってしまいました。トム(・ショーン)は、私について『“最も過小評価されている過大評価された監督”か、“最も過大評価されている過小評価された監督”のどちらかだ』だと言いました。文化は商業的成功をどう扱えば良いのか把握できていないと常に感じていました。ハリウッドで映画を作ることが実際にそうであるように、ビジネスと芸術の交差点という厄介な問題によって、文化は商業的成功の扱いを完全に理解しているわけではないという感覚がありました。ハリウッドで映画を作ると、様々な場所や様々な人々に届けることができるが、“ハリウッド“という独特の言い回しで語られ、しばしば否定され、真剣に語られることがないと感じていたのです」と告白している。

撮影現場で椅子に座らないという逸話を持つノーラン監督
撮影現場で椅子に座らないという逸話を持つノーラン監督写真:SPLASH/アフロ

また、ノーラン監督は映画の解釈を観客に押し付けることを嫌い、作品のテーマについて言及することを避けてきた。その理由を、「『メメント』でヴェネチア国際映画祭に行った時、上映後の記者会見で「エンディングの客観的な真実はなにか」と聞かれたので、「それは観客が決めることだ」と言い、そして「でも私が思うに…」という話をしました。弟のジョナ(サン・ノーラン、脚本家)はその後、私を傍らに連れて行き「さっきの答えの前半なんて誰も聞いていない。彼らは映画を作ったヤツの解釈を知りたいだけだ。二度とそんなことはしないでくれ 」と言いました。彼の言う通りだったので、それ以来一度もやっていません」と語っている。
この本でモチーフやテーマが語られていることについて、「自意識過剰は、映画監督にとって死を意味します。自分がやったことを繰り返さないということではありません。“繰り返さないことをしない”ということです。作品群を通して考えるのではなく、自分が伝えるべき物語や、観客に最高の映画体験を与える最善の方法として、モチーフがあると考えています」と述べた。

現在も公開中のクリストファー・ノーラン監督最新作『TENET テネット』
現在も公開中のクリストファー・ノーラン監督最新作『TENET テネット』[c]2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

『TENET テネット』は9月に全米で劇場公開され、3億5千万ドル以上の興行成績をあげた。だが、今作以降ハリウッドの大作映画は、公開延期もしくはストリーミングへの移行といった劇場公開回避策を選んでいる。この状況についても、初めて見解を述べている。「(映画界で起きている)既存のトレンドが加速することについては、パンデミックが始まったばかりの頃に考えていたことです。しかし、2019年が劇場映画にとって史上最高の興行収入をあげた年だった事実を無視しています。興行収入も観客動員数も史上最高でした。だから私にとってこの問題は、“私たちが現在生きている、新しい現実とはなんなのか?“ということなのです。ワーナー・ブラザースが『TENET テネット』を公開し、3億5千万ドル近く稼いだことに感激しました。しかし、スタジオが『TENET テネット』の公開から間違った結論を導き出していることを憂慮しています。この映画興行が成功し、スタジオにとって十分な収益をもたらしたかを見ずに、パンデミック以前の期待に応えられていないところに注目し、それを口実にして、ビジネスを再構築したり闘いに挑み適応するのではなく、パンデミックの損失をすべて劇場に負わせるよう仕向けるのではないかということを」。

クリストファー・ノーランのインタビューをまとめた書籍、「The Nolan Variations: The Movies, Mysteries, and Marvels of Christopher Nolan」(トム・ショーン著)は米国にて発売中。

文/平井伊都子

「The Nolan Variations: The Movies, Mysteries, and Marvels of Christopher Nolan」(トム・ショーン著)の詳細はこちら:https://www.penguinrandomhouse.com/books/597562/the-nolan-variations-by-tom-shone/

関連作品