浅香航大、心を揺さぶられた出演作『滑走路』を語る「ここまで骨太な映画はキャリア的にも珍しい」
「鷹野はすべてを背負うけど、自分の感情は表に出せない繊細なやつ」
キャリア官僚を演じるのも初めてだったが、「寝る時間がなかったり、忙し過ぎてメシの味がしないような時間はどんな職業の人でも経験することだから、そこは自然に臨めました」と言う。撮影に入る前には厚生労働省の官僚について多少は調べたが、鷹野の気持ちの流れのベースを作る上でいちばん大切にしたのは次のことだった。「劇中で、鷹野は上司から『困っている人や苦しんでいる人を助けるのがオマエの仕事だろ』って言われるんですけど、その言葉ってすごく重いじゃないですか。でも、それを背負うのが自分の仕事だという意識を常に持って現場にいるようにしました」。
大庭監督とは「鷹野は最後まで泣かない。泣けない」という話で一致していた。「鷹野は結局、そういう奴なんですよ。すべてを背負うけど、自分の感情は表に出せない繊細なやつなんです。鷹野自身の中にも中学時代の出来事が作った人格があると思うし、 それがいまの彼の人生にも影響を及ぼしているような気がする」。そういったことを、監督ともよく話し合ったという。
完成した映画はいじめを始めとした重い題材を扱いながらも、希望が感じられるものになっていて、浅香自身も「すごく好きな映画です」と強調。「観た人が3つのエピソードの交錯をちゃんと理解できるのかな?と思ったりもしたけれど、そこがこの映画に引き込む求心力にもなっている気がします」と分析し、「僕は昔のジブリ映画を観ているような気持ちになった」という意外な感想を告白する。「ジブリの作品と同じように、ほどよく時間が流れて行く心地よさがあるんです。歌集からインスパイアされた美しい映像やたまに入ってくるピアノの音もいい。ラストシーンもめちゃくちゃカッコいいし、Sano ibukiさんの主題歌『紙飛行機』もすばらしい。本当にいい映画を観たな~という気持ちになりました」。
キャストの一人である浅香の心をも揺り動かした本作は、混迷の時代で苦しみ、喘ぎながらも、まっすぐ前を向いて進もうとしている人たちの背中をきっと強く押してくれるに違いない。
取材・文/イソガイマサト