公開同時配信が映画館にもたらす影響とは?“17日後に配信”の作品が北米興収上位を独占
国内では年内に劇場公開される『ワンダーウーマン1984』(12月18日公開)を皮切りに、『Godzilla vs Kong』や『DUNE/デューン 砂の惑星』、『The Matrix4』まで、ワーナー・ブラザースが2021年公開の全作品を、北米での劇場公開と同時に自社の動画配信サービスHBO Maxで配信することを発表、世界中に衝撃が走った先週末。この新型コロナウイルスのパンデミックによって大きな岐路に立たされた映画館と動画配信サービスの関係に、もっとも重大なインパクトが与えられたといっても過言ではないだろう。
そんななか先週末(12月4日から6日)の北米興収ランキングは、前週に引きつづきドリームワークスの人気アニメ『クルードさんちのはじめての冒険』(13)の続編『The Croods: A New Age』が440万ドルを売り上げて2週連続で1位を獲得。
例年であれば感謝祭後の“ポスト・サンクスギビング”週末は、1年を通しても前週とのギャップが著しい閑散期。このような特殊な情勢のなかでも上位10作品の合計興収の前週比は40%ほどの推移と、下落率だけで測れば例年通りの状態となった。
『The Croods: A New Age』はすでに北米興収2000万ドルを突破しており、3月の映画館休業以降に公開された作品で現在4位。2382万ドルを売り上げている『The New Mutants』を超えるのは時間の問題で、『TENET テネット』(公開中)に次ぐ、コロナ禍を代表するヒット作となることは確実だ。
興行収入ランキングの上位10作品のうち、『The Croods: A New Age』や初登場4位に入った『All My Life』など3作品はユニバーサル・ピクチャーズの配給作品で、初登場2位の『Half Brothers』など3作品はユニバーサル傘下のフォーカス・フィーチャーズの配給作品。
上位独占を果たしたユニバーサルは、今年7月に劇場公開から最短17日後に新作をPVOD配信するという契約を北米の映画チェーン最大手であるAMCと合意。すでに3位の『ザ・スイッチ』(2021年1月15日公開)、7位の『Come Play』、8位の『Let Him Go』は北米配信が開始されており、『The Croods: A New Age』も12月18日(金)から配信が決まっている。
3月の段階で先陣を切って新作PVOD配信に踏み切り、ヒットが見込まれていた『トロールズ ミュージック★パワー』の劇場公開を断念して配信スルーにし、大成功を収めたユニバーサル。
当時は批判的な意見も見られたが、7月の契約で収益の一部を劇場と分配することを約束したこと、想像以上にパンデミックが長引き国内の半数近くの映画館が休業しているなかでも積極的に新作を公開しつづけていることなど、映画館文化と配信とを両立して共存していくためのプロトタイプを作りあげたことは見逃せない。
前述のワーナーの決定では映画館と配信の同時公開を約1か月間行なった後に、劇場公開のみに切り替え、しばらくしてから通常時と同様に配信を再開する流れになるとのこと。
必然的に『ムーラン』配信開始時のディズニープラスと同様、HBO Maxの加入者は増加することになるだろうが、この前例のない施策が映画館にどのような影響をもたらすことになるのか。年末年始の映画界の動きは特に注視しておく必要があるだろう。
文/久保田 和馬