『トータル・リコール』“血生臭い”未来像を支えた、精巧なミニチュアと特殊メイク秘話|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『トータル・リコール』“血生臭い”未来像を支えた、精巧なミニチュアと特殊メイク秘話

コラム

『トータル・リコール』“血生臭い”未来像を支えた、精巧なミニチュアと特殊メイク秘話

言わずと知れたスーパースター、アーノルド・シュワルツェネッガー。彼が『ロボコップ』(87)などで知られるオランダの鬼才、ポール・バーホーベンとタッグを組んだSF映画の名作が4K映像で甦り、『トータル・リコール 4Kデジタルリマスター』(公開中)としてスクリーンに再び登場した。シュワルツェネッガーの体を張ったアクションに血生臭いバイオレンス描写、3DCGがまだ主流でない時代に大がかりなセットやミニチュア、特殊メイクで作られた“火星”の造形。誰もが夢中になった本作の世界観を、製作秘話やメイキングから振り返ってみたい。

【写真を見る】アクションヒーローとして絶頂期のシュワルツェネッガーが、大暴れし敵を屠りまくる!
【写真を見る】アクションヒーローとして絶頂期のシュワルツェネッガーが、大暴れし敵を屠りまくる![c] 1990 STUDIOCANAL

西暦2084年、地球のしがない労働者ダグラス・クエイド(シュワルツェネッガー)は、美しい妻ローリー(シャロン・ストーン)とともに平凡だが満ち足りた生活を送っている。唯一、彼を悩ませているのは、毎夜うなされる火星の夢。夢の中の火星は鮮明で、行ったことがないその場所に強く惹かれていた。そんなある日、クエイドは「理想の記憶を売ります」という広告に興味を持ち、体験したことのない記憶を販売する「リコール社」を訪れる。そこで彼は、“火星を救う秘密諜報員”というプログラムを試すが、突如トラブルが発生し中断。さらに、同僚や愛する妻、正体不明の敵からの襲撃も受けてしまう。クエイドはすべての謎を解くため、火星を目指すことにするが…。

アーノルド・シュワルツェネッガーとポール・バーホーベンがタッグを組んだSFの名作が4K映像で甦った!
アーノルド・シュワルツェネッガーとポール・バーホーベンがタッグを組んだSFの名作が4K映像で甦った![c] 1990 STUDIOCANAL

すべては『ロボコップ』から動きだした

原作は、『ブレードランナー』(82)の原作者としても知られるフィリップ・K・ディックの短編「追憶売ります」。1970年代半ばから何度も映画化が動きだしては頓挫を繰り返し、幻のプロジェクトとして消えていくしかないと思われた本作を救ったのがシュワルツェネッガーだった。
実は1980年代初めには脚本を目にし、そのシナリオに惚れ込み主演を熱望していたのだが、肉体派の彼がアイデンティティを模索する複雑な役どころを演じるということにプロデューサー陣は懐疑的で、相手にされなかったそうだ。


しかしその後、『ターミネーター』(84)、『コマンドー』(85)が立て続けに大ヒットを記録し、アクションスターの地位を不動のものとしたタイミングで、ついに映画化権を獲得。『ロボコップ』に強い衝撃を受けたシュワルツェネッガーは自らバーホーベンを監督に指名し、7000万ドルという1990年公開当時の最高額と言われる巨額の製作費をつぎ込んで、本作の製作がスタートしたのだ。

体が勝手に動き、瞬く間に襲い来る敵を殺してしまうクエイド
体が勝手に動き、瞬く間に襲い来る敵を殺してしまうクエイド[c] 1990 STUDIOCANAL

スタジオやミニュチュアで作りこまれた、かつてない火星世界

『トータル・リコール』で描こうとしたのは、(1990年当時の)現実から地続きで進化した現実味のある未来。撮影は、1989年3月20日からメキシコシティにあるチェルブスコ・スタジオでスタートする。
どこまでも広がる赤い荒野が印象的な火星のビジュアルには、NASAの火星着陸映像が役立てられた。地表全体の構造は岩を基本とし、大気圏が薄く人体に有害な太陽放射線を防げないため、住人は岩に隠れて暮らしているという設定に。火星らしく見えるように、セットには赤色岩なども組み込まれている。
作業チームの人数は360人を超え、広々とした宇宙船発着所や人々の往来が激しいハブステーション、クモの巣状に張り巡らされた地下トンネルなど、いくつものセットがスタジオに組まれていった。

NASAの映像を参考に作り上げられたリアルな火星の世界
NASAの映像を参考に作り上げられたリアルな火星の世界[c] 1990 STUDIOCANAL

俯瞰で火星を映し、そのスケール感を見せるため、実物セットの精工なミニュチュアも制作されている。このミニュチュアで撮影された映像に、ブルースクリーンを背景に撮った俳優のショットを組み合わせるためだ。ミニュチュアといっても、一度に180度の広い視野を確保する必要があり、屋外に設置されたものでは12~18mものサイズに。
また、俳優の動きとミニュチュアで撮影された映像を違和感なく合成するため、“リアル・タイム・モーション・コントロール”という当時の最先端技術も採用されている。通常1秒24コマで撮影するカメラをコンピューターで制御し、収録されたどんな細かい動きも記録されるため、セットでもミニュチュアでもまったく同じ動きが再現できたそうだ。

火星でも決死の逃避行を続けるクエイド
火星でも決死の逃避行を続けるクエイド[c] 1990 STUDIOCANAL

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