『犬鳴村』『事故物件』から『樹海村』へ…ヒット相次ぐ“Jホラーブーム”再燃のワケ
コロナ禍の非常事態で、大作や話題作が軒並み公開延期になった2020年の映画界。そんないや~なムードを吹き飛ばすように、“Jホラー”の2大マスター=清水崇監督と中田秀夫監督の『犬鳴村』と『事故物件 恐い間取り』が連続してスマッシュヒットしたことは、2020年の映画界にとって、喜ばしいトピックだったと言えるだろう。だが、なぜこの2本はヒットしたのだろうか?本稿では、“Jホラー”の歴史を振り返りながらその理由を検証し、公開を控える清水監督の“恐怖の村”シリーズ第2弾『樹海村』(2月5日公開)のヒットの可能性について探っていきたい。
“Jホラー”というジャンルを確立させた『リング』
“Jホラー”というジャンルは、1998年に公開された中田監督による『リング』の大ヒットによって定着したのは誰もが知るところだ。本作の恐怖は女子高生たちの噂によって瞬く間に広がり、翌年には、『リング』と同時上映された飯田譲治監督の『らせん』(98)とは異なるストーリーが描かれた続編『リング2』(99)を発表し、00年には鶴田法男監督による『リング0 バースデイ』も製作。
海外に目を向けると、韓国ではのちに『リンダ リンダ リンダ』(05)の主演を務めるぺ・ドゥナが出演した『リング・ウィルス』(99)が話題に。さらに、02年にゴア・ヴァービンスキー監督が手掛けた『ザ・リング』(02)、『リング2』以来再び中田監督がメガホンをとった『ザ・リング2』(05)が立て続けに作られ、近年もハリウッドリメイク版の第3作『ザ・リング/リバース』(17)が公開されるなど、“リング・ウイルス”は着実に全世界へ感染を広げていった。
しかもその勢いは衰えるどころか、時代ごとに最新のトレンドやテクノロジーを取り入れながらたくましく成長。「リング」の原作者、鈴木光司の小説「エス」をベースに、『らせん』の続編のような展開を見せた英勉監督作『貞子3D』(12)、『貞子3D2』(13)では、悪霊の“貞子”が文字通りスクリーンから飛びだす演出で観る者を震撼させ、清水崇監督が「呪怨」シリーズで産み落としたもう一人(?)の悪霊こと伽椰子と貞子が対決する『貞子vs伽椰子』(16、白石晃士監督)というドリーム作品も登場。
2019年には、中田監督が久しぶりにシリーズに帰還し、“見たら死ぬ”のではなく、“撮ったら死ぬ”という令和の時代にふさわしい新ルールで『貞子』を発表したのも印象的だった。
ビデオ作品から劇場映画へと“恐怖”を拡大させた『呪怨』
一方、もう一人の雄=清水監督の「呪怨」シリーズも、最初に製作された2000年のビデオ版2作こそ一般的にな知名度を得るには至らなかったものの、家をめぐる背中に張りつくような不穏な空気とクライマックスの想像を絶する恐怖がホラーファンの間でじわじわと広がり、2003年には監督自身が、奥菜恵、伊藤美咲らをヒロインに迎えた劇場版と酒井法子が主演した続編を発表(実は黒沢清監督らに見せた自主製作版が一番怖いらしい…)。
その後も、三宅隆太監督が『呪怨 白い老女』(09)を、安里麻里監督が『呪怨 黒い少女』(09)、そして落合正幸監督が『呪怨 終わりの始まり』と『呪怨-ザ・ファイナル-』(ともに14)を発表し、2004年と2006年の『THE JUON 呪怨』、『呪怨 パンデミック』では清水監督がハリウッドデビューを果たし、Jホラーの恐怖と威力を世界中に刻んでいる(09年にはハリウッド版第3作『呪怨 ザ・グラッジ3』も製作されたが、日米ともに劇場未公開)。
「Jホラーシアター」以降…作られ続けたJホラー
もちろん、「リング」と「呪怨」シリーズだけがJホラーではない。2001年には中田監督が鈴木光司の短編小説を映画化した『仄暗い水の底から』も話題となったことで、『リング』の一瀬隆重プロデューサーは「Jホラーシアター」というブランドを立ち上げる。このブランドでは落合正幸監督が『感染』(04)、鶴田法男監督が『予言』(04)を、2006年には清水崇監督が『輪廻』を発表。その後も、黒沢清監督の『叫』(07)、中田秀夫監督の『怪談』(07)、高橋洋監督の『恐怖』(10)を次々に製作した。
このほかにも、「富江」や「怪談 新耳袋」などの人気シリーズなどが誕生し、2010年代に入ったあとも、中田監督は『クロユリ団地』(13)、『劇場霊』(15)など精力的にホラー映画を発表。清水監督が『戦慄迷宮3D THE SHOCK LABYRINTH』(09)や『雨女』(16)といった体感型ホラー作品で、新たな恐怖の創造に挑戦したことも記憶に新しい。
だが、こうして振り返ってみても、『リング』と『呪怨』ほどのトレンドになったJホラー作品はほかには見当たらない。トレンドになった2大タイトルにしても、ともに第1作の衝撃を超える時代を象徴するような作品は生まれていないので、ブランド力も次第に衰えていった。こうして一時代を築いたJホラーのブームも終焉の時を迎えた…と、誰もが思ったに違いない。
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