『ヤクザと家族 The Family』で提示した、綾野剛と舘ひろしの“役者”としての生き方
『ヤクザと家族 The Family』(1月29日公開)は、『新聞記者』(19)で日本アカデミー賞主要3冠など数々の映画賞に輝いた藤井道人監督が、綾野剛と舘ひろしのW主演で描く衝撃作。1999年、2005年、2019年――変わりゆく時代の中で排除されていく“ヤクザ”を、抗争に重きを置くのではなく、家族の目線を通して年代記として描く心揺さぶる壮大なヒューマンストーリーだ
。綾野剛が少年時代に柴咲組組長の危機を救ったことからヤクザの世界に足を踏み入れることになる主人公・山本賢治の20年を全身で演じ、孤独な彼に手を差し伸べ、家族(ファミリー)という居場所を与える組長の柴咲博を舘ひろしが体現。そこで、今回が念願の初共演となった2人に撮影秘話を聞いた。
1999年、父親を覚醒剤で失い、自暴自棄になっていた山本賢治(綾野)はヤクザの組長・柴咲博(舘ひろし)をチンピラの襲撃から救ったのが縁で柴咲組の一員になる。2005年、ヤクザの世界で男を上げた賢治はホステスの由香(尾野真千子)に好意を持つが、敵対する侠葉会の若頭補佐を刺殺した兄貴分・中村(北村友起哉)の罪を肩代わりして獄中に。そして2019年、14年の刑期を終えて出所した賢治が目にしたのは変わり果てた社会とかつての面影を失った柴咲組の姿だった――。
「撮影中、舘さんの笑顔を1秒でも長く見ていたいと思った」(綾野)
――本作の出演のオファーを最初に聞いた時はどう思われました?
綾野「撮りたいものが明確な、『新聞記者』の藤井道人監督が脚本も執筆されていましたから。同年代の監督が覚悟して挑む作品に参加したいという想いが強かったので、実は台本を読む前に『お受けします』と伝えました。タッグを組み続けたいという同年代の監督に初めて出会ったんです。しかも、最初にお話を聞いた時はひとつの時代の話だったんですが、監督の筆が入ったことで3章からなるクロニクル(年代期)になっていて。台本の構成を短期間でガラリと改稿するのは危険が伴う作業だと普通は思い敬遠するのですが、それをクールにやってのける、藤井監督のその精神力にも惚れました」
舘「脚本をいただいた時に、“反社”を排除するという空気が強まっているいまの世の中の状況を考えたウチの会社(所属事務所)はあまり乗り気ではなかったんです。でも、僕は脚本を読ませていただいて『これは絶対にやりたい!』と主張しました。ヤクザというツールを使って、家族の本当の絆を描いていましたから」
――綾野さんはヤクザの世界に足を踏み入れる山本賢治に、舘さんは山本が惚れる柴咲組の組長・柴咲博にどのように臨まれました?
綾野「舘さんが生きる親父に出会ってからは、ただ親父を意識していました。ただただ、ずっと見続けていました。舘さんは気づいてないと思いますが」
舘「気づいていたよ(笑)」
綾野「舘さんは僕自身大好きな、最愛の人だから、撮影中も“親父の笑顔を1秒でも長く見たい”という感覚があって。そういう意味では、僕がもともと惚れていた舘さんが親父を生きてくれて本当に感謝です。男が男に惚れる感覚を表現するので、芝居じゃないところでも惚れられる人の方がいいわけです。今回初めてお会いして、舘さんに惚れていた理由が自分の中で結実しました」
舘「僕は逆に、綾野くんの芝居にずっと引っ張られていくような日々で、それがすごく気持ちよかった。それこそ、拉致されていた山本の訴えるような目が本当にいいんですよ。子犬みたいな目でね(笑)」
綾野「舘さんに引き出していただきました。あそこは自分の本当の父親にも見せなかった山本の姿だったような気がしていて。彼は父親をにらむことも随分前に諦めているし、父と子の関係も破綻したと思い込んでいたから柴咲組長のことも最初は去勢を張ってにらむんです。でも、自分が頼れる人はもうこの人しかいないと気づいた瞬間にあの目になったのだと思います」
舘「ズルいんですよ(笑)。それまでずっと俺のことをにらんでいたのに、突然子犬のような目をするから、頭をなでてやりたくなる。そういう風にさせてくれる。でも、僕は目で訴えられる俳優は強いと信じていて。あの時の山本の子犬のような目と柴咲に『よく頑張ったらしいな』と言われてウワ~って泣き出すあの芝居を見た時に、本当にすばらしい俳優さんだと実感しました」