『ヤクザと家族 The Family』で提示した、綾野剛と舘ひろしの“役者”としての生き方
「藤井監督は役者に徹底して寄り添ってくれる」(綾野)
綾野「僕は、柴咲組長がゴルフのスウィングの練習をされているシーンで、舘さんの肩にコートをかけさせていただいたのは自分の特権でした。山本は、血のつながった人たちとはできなかったことをすべて叶えてくれた柴咲組長を常におもんぱかる。そこは僕自身の人生観や死生観にも繋がる本質的なもの。あのシーンの撮影の時は寒かったし、コートをかけて上げたいという気持ちに自然になったんです」
舘「現場では台本に書いてあること以上のハプニングが常に起こるわけだけど、藤井監督が冷静なジャッジでそれを取り入れて、カットしていくから面白くなるのかもしれない。さっきの拳銃を出す、出さないというやりとりにしても、完成した映画を観たら監督の判断の方が正しかった。僕はこれまで仕事をしてきた撮影所育ちの監督の多くは、俳優にヘンな遠慮があったけれど、藤井監督にはそれがまったくない。純粋に演出に没頭しているその姿勢が素晴らしいよね」
綾野「僕は、藤井監督の類まれなる柔軟性がスゴいと思います。自分のやりたいことに役者を決して誘導していかないし、逆に役者に徹底して寄り添ってくれる。僕が『監督、これはどっちなんですかね?』と相談しても、監督自身も何か面白い答えが待っているんじゃないか? というスタンスでワクワクしてくれるんです」
舘「僕は藤井監督の撮り方が好きでね。同じ芝居を、カメラのフレームのサイズを変えながら何度も撮るタイプじゃないですか。渡(哲也)は同じ芝居を何度もするのが嫌いなんだけど、僕は全然嫌いじゃなくて。なぜなら、自分に自信がないから(笑)。それこそ役や映画の世界観に入れる時と入れない時があるけれど、編集は監督の物だし、監督がきっといいショットを選んでくれるだろうなという思いがあるので、僕は楽な気持ちでお芝居ができるんですよ」