『ヤクザと家族 The Family』で提示した、綾野剛と舘ひろしの“役者”としての生き方
「出所した山本に金を渡すシーンではセリフを足させてもらった」(舘)
綾野「僕も忘れられない、強烈に残っているシーンがあります。出所して組に戻ってきた山本にかける親父の第一声が『ご苦労さん』だったんですが、その聞いたことのない声と呼吸の仕方を耳にした時に、震えました」
舘「そうだっけ?」
綾野「はい。第3章のこのシーンは本当に注目してほしいんですけど、すごく深い呼吸をされていて。それでも立ち続けている親父を見た時に、自分のしたことによって失った親父との時間の大きさに気づいき、親父ともっと違う景色が見られたのかもしれないという後悔がよみがえり、テストから胴奮いしてしまった。その時に僕は、第3章では最後のシーン以外は煙草を吸わないと決めたんです。親父と1秒でも長く一緒にいたいと思って。単純なことですが、久々に会った親父の『ご苦労さん』の言葉を耳にした時にそう誓ったんです」
舘「それに対して僕は、疲れたオヤジをただ演じるだけでよかったんだけど、出所した山本に金を渡す時の『ごめんな』というセリフは勝手に入れさせてもらいました。ヤクザの親分がそんなこと言うかな?とも思ったけれど、家族ならそれもあるかなと考えたんです」
綾野「第3章では立ち方や肩の落ち方、背中の丸まり方も、立ち姿が美しい普段の舘さんと全然違っていて、僕はただただ苦しかった」
舘「そんなことないよ。山本の襲名披露のあと、時代が4、5年経過するから伸ばしていた髪を短くしたぐらいで、あとは病気でやつれた感じを出せばいいだけだったから楽だったよ(笑)」
綾野「でも、あの浴衣を着て立っている時はその普段の姿とかけ離れていたのでかなり動揺しました。そういう意味では、僕も感覚でそこにいたような気がします」
舘「そのシーンに入れば自然にそうなるんだよ。だから、あまり考えていない。ただ、ヤクザらしいところも見せないと柴咲が普通のおじさんで終わっちゃうから、敵対する侠葉会の組長・加藤(豊原功補)と対峙した時の『調子こいてるんじゃねえぞ、コラ!』というセリフを足させてもらって。それこそ最初は『拳銃をドンと置きたい』とも言ったんだけど、それは藤井監督に止められたので、水をかける芝居に変わったんだよ」