【今週の☆☆☆】誰もが感情移入してしまう瞬間に満ちた『ヤクザと家族 The Family』、閉塞した“いま”に刺さる『心の傷を癒すということ 劇場版』など、週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、週末に観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画。今週は、『新聞記者』のスタッフが“ヤクザ”を題材に描く家族の物語、NHKで放送されて話題を呼んだドラマを再編集した劇場版、東京国際映画祭グランプリを受賞したデンマーク映画の、心に響く3本!
誰もが感情移入してしまう瞬間がちりばめられている…『ヤクザと家族 The Family』(1月29日公開)
政治的テーマも濃厚ながら、日本アカデミー賞受賞など大きな話題を呼んだ『新聞記者』。その監督の藤井道人と製作のスターサンズが再び組んだこの新作は、ヤクザの道に入った主人公の20年にわたる壮絶な生きざまを見つめた力作だ。1999年、2005年、2019年という3つの時代を背景に、柴咲組組長を助けた賢治が、組に迎え入れられ、ヤクザの世界でのし上がっていくものの、暴対法と世間の冷たい目から、その居場所を失っていく切実な運命が展開していく。タイトルが示すとおり、これまでのヤクザ映画と大きく違うのは、さまざまな「家族」のテーマが強烈に貫かれる点。身寄りのない賢治と組長の、父と息子のような濃密な絆。ヤクザの元家族が直面するシビアな現実…。ヤクザという特殊な状況ながら、誰もが感情移入してしまう瞬間がちりばめられている。賢治の20年の変化を劇的に演じ分ける綾野剛を中心に、組長役、舘ひろしの異様な存在感はもちろん、北村有起哉、磯村勇斗らが各時代を象徴するアウトロー像を体現。ハイレベルな演技対決を堪能してほしい。(映画ライター・斉藤博昭)
閉塞した“いま”を生きる現代人の心も癒してくれる…『心の傷を癒すということ 劇場版』(1月29日公開)
95年の阪神・淡路大震災で被災者の心のケアに取り組んだ実在の精神科医・安克昌の著書が原案の、NHKのドラマを再編集した映画版。本作は震災時に多くの被災者の声に耳を傾け、志半ばでこの世を去った精神科医・安の姿を描いたもので、震災後のシーンでは彼が奔走する姿にスポットが当てられていく。だが、注目すべきは、自身のルーツが韓国にあることを知った安が“自分は何者なのか?”と模索し、人の心が知りたくて精神科医を目指そうとするプロセスが前半で丁寧に描かれていること。妻・終子(尾野真千子)との映画館での出会いも印象的で、そこから伝わる安の人柄や思考が後半の彼の行動に説得力をもたらし、観る者に多くのことを気づかせてくれる。とりわけ、安が繰り返し言う「強い人なんかいない」「弱いのはいいことだよ。他人の弱さが分かるから」などのセリフ、先輩医師が安に告げる「辛いときは言葉にした方がいい」という教えは閉塞した“いま”を生きる現代人の心も癒してくれるはず。主人公の安を演じた、柄本佑の人間味あふれる真摯な芝居も素晴らしい。(映画ライター・イソガイマサト)
年老いた叔父と暮らす27歳の女性の転機…『わたしの叔父さん』(1月29日公開)
東京国際映画祭グランプリ受賞の他、各国の映画祭で多数の賞を受賞したデンマーク映画。のどかな農村を舞台に、年老いた叔父と暮らす27歳の女性の人生の転機を見つめる。
両親を早くに亡くしたクリスは、実の父と娘のように叔父と長く暮らしてきた。今は、足が不自由になった叔父を支え、酪農を共に営んでいる。そんな折、難産に苦しむ牛への処置を獣医に褒められたクリスは、かつて抱いていた獣医への夢を思い出す。同時に、ある青年との出会いに心がときめくが、夢にも恋にも踏み出せないでいた――。
映し出される2人の生活は、大した会話もなく淡々と静かに、まるで日々のルーチンをこなしているだけのようでもある。それなのに観ているうちに、優しくぬくもってくる不思議。叔父が気になって、デートにまで連れて行ってしまうクリスの行動や青年の反応に思わずクスクス!なるほど小津安二郎を師と仰ぐ監督の作品らしい、素朴で温かい人情味に溢れ、叔父と姪、互いに対する情や慈しみがジワジワ心に染みてくる。脚本・撮影・編集も手掛けた、80年生まれの新鋭フラレ・ピーダゼンの次回作も気になる!(映画ライター・折田千鶴子)
週末に映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて!
構成/サンクレイオ翼