『ドラゴン・タトゥーの女』から『秘密への招待状』まで…北欧映画のリメイクにハリウッドが魅せられるワケ
きっと多くの日本人は、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、アイスランドといった北欧諸国に総じてポジティブな印象を抱いているはずだ。洗練されたデザインのインテリア、家電、ファッション。高福祉社会と優れた教育システムが確立されていることでも知られるこれらの国々は、国民の“幸福度”をランク付けした国際指標でも上位を独占している。さらに映画やテレビドラマ、音楽、文学などのカルチャーの分野においても世界的な注目を集め、北欧産の映像コンテンツはしばしばハリウッドでリメイクされてきた。
ヨーロッパやラテンアメリカなどの外国のヒット作をアメリカ市場向けに英語でリメイクするのは、ハリウッドのお家芸。とりわけ北欧では上記のような“幸福”のイメージとはかけ離れたダークな人間ドラマ、よく練られたプロットとキャラクターの妙が光るスリラー、ミステリーなどのジャンル映画が作られており、リメイクにうってつけのネタが尽きない。それらの多くは普遍的なテーマ、娯楽性をはらんでいるので、さほど違和感なくアメリカに舞台を置き換えられることも北欧映画のリメイクが盛んな理由だろう。
最も有名なリメイク例は、デヴィッド・フィンチャー監督作品『ドラゴン・タトゥーの女』(11)だ。元ネタは、スウェーデンの作家、スティーグ・ラーソンのベストセラー小説に基づくスウェーデン&デンマーク&ドイツの合作映画『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(09)。オリジナル版では孤高の天才ハッカーである主人公リスベットに扮したノオミ・ラパスが完璧なはまり役だったが、ハリウッド版のルーニー・マーラも大健闘。あらかじめオリジナル版を観ていると“先の展開が読めてしまう”ためにミステリー劇の興趣がそがれる難点はあるものの、もうひとりの主人公ミカエル役に大物俳優ダニエル・クレイグを起用し、リスベットとの関係性を掘り下げることで独自性を打ち出していた。
スウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』(08)のリメイク『モールス』(10)は、その企画のニュースがネット上に流れた時点で一部のファンから不安の声が続出した。吸血鬼の少女に恋してしまったいじめられっ子の少年の運命を描いたオリジナル版は、甘美にして痛切な思春期映画で、ホラー映画ファン以外からも絶大な支持を得た傑作。そのため極めてハードルの高いリメイクだったが、マット・リーヴス監督、コディ・スミット=マクフィー、クロエ・グレース・モレッツ主演という布陣のハリウッド版も上々の出来ばえ。細部に至るまでオリジナル版を尊重した忠実なリメイクだが、列車を舞台にしたラスト・シーンは微妙にニュアンスが異なっていた。
大雪原を舞台にした復讐劇『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』(14)は劇場未公開作品だが、予測不能のバイオレンスとブラックユーモアが炸裂する面白さが評判になった一作。ノルウェー人のハンス・ペテル・モランド監督がリーアム・ニーソン主演のリメイク『スノー・ロワイヤル』(19)でもメガホンを執り、アメリカの土地柄に合わせたアレンジを施した快作に仕上げている。クリストファー・ノーラン監督の長編第3作『インソムニア』(02)の元ネタ『不眠症 オリジナル版 インソムニア』(97)も、同じくノルウェー製作のクライム・スリラーだった。
そして現在公開中の新作『秘密への招待状』は、劇的なストーリー展開に圧倒されるヒューマンドラマだ。インドで孤児院を運営している女性イザベルが、その事業への資金提供を申し出た大富豪のテレサに会うためニューヨークへ。半ば強引にテレサの娘グレイスの結婚式に招かれたイザベルは、会場で信じがたい光景を目の当たりにする。テレサの夫オスカーはイザベルの元恋人で、グレイスはイザベルがオスカーとの間にもうけた直後に養子に出したはずの娘だったのだ…。
長年封印されてきた家族間の真実に揺らめく男女の葛藤を描く本作は、デンマークのスザンネ・ビア監督作品『アフター・ウェディング』(06)の再映画化。オリジナル版では共に男性だった2人の主人公をまったく異なる夢を追い求める女性たちに変更し、理想と現実、愛と憎しみの狭間で引き裂かれる彼女たちの“衝突”をエモーショナルに映し出す。二大実力派女優、ジュリアン・ムーアとミシェル・ウィリアムズの共演に加え、インドのスラム街とニューヨークの豪邸というふたつの世界を鮮やかに対比させたビジュアルの豪華さもハリウッド映画ならでは。ちなみに、2000年代以降の北欧を代表するフィルムメーカーのひとりであるスザンネ・ビアは、2004年に制作した『ある愛の風景』も『マイ・ブラザー』(09)としてリメイクされている。
また、ワン・シチュエーションのデンマーク製サスペンス『THE GUILTY/ギルティ』(18)を、Netflixがジェイク・ギレンホール主演でリメイクするプロジェクトも現在進行中。ハリウッドが良質かつユニークな北欧映画に熱い眼差しを送る流れは、今後も続きそうだ。
文/高橋諭治
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