【今週の☆☆☆】映画賞レース席巻の『ノマドランド』、大泉洋主演『騙し絵の牙』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、週末に観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画。今週は、4月に発表されるアカデミー賞で主要6部門候補になっている話題のヒューマンドラマ、出版社を舞台にクセ者たちの騙し合いが繰り広げられるエンタメ作、ベルリン国際映画祭で2冠に輝く、“水の精”の神話をモチーフにしたラブストーリーの、見逃したくない、珠玉の3本!
ノマドたちの姿に浮き上がる「人生賛歌」のテーマ…『ノマドランド』(公開中)
アカデミー賞で作品賞が最有力。つまり一年を代表する作品になりそうな本作。特定の場所に定住せず、仕事を求めて各地を転々とする生活を送るノマド(語源は「遊牧民」)の人たちを描き、経済破綻で自宅を失った主人公のファーンの姿に、格差社会の切実な現実が重ねられているようでもある。そんな設定から、社会派の骨太な作風かと思いきや、全体のムードは軽やかで、人間の温もりに溢れた印象。ノマドたちを哀れな存在ではなく、むしろ自由で、人間のあるべき姿と感じさせる、つまり「人生賛歌」のテーマが浮き上がり、誰もが心をつかまれてしまうのである。トイレ問題や、病気や犯罪への不安など、車のみでの生活のリアルな細部と、ファーンが旅するアメリカ各地の映像美や、実際にノマド生活を送っているキャストの素朴な表情など、癒されるポイントのバランスが絶妙。人生の出会いと別れを表現する数々の名セリフは、永遠に心に刻まれることだろう。(映画ライター・斉藤博昭)
単なる“騙し合いバトル”にあらず。野心はもっとデカい。…『騙し絵の牙』(公開中)
最初にハッキリさせておこう。原作と映画版はかなり違う。吉田大八監督(と共同脚本の楠野一郎)が謀ったのだ。そしてそれは、大成功している。「原作で自分に当て書きされたキャラクターなのに、OKがなかなか出なかった」という既報の、主演・大泉洋お得意のボヤきも逆説的に捉えるべき。つまりこれまでにない「大泉洋」が観られるってこと(松岡茉優はじめ、主要キャストもそう!)。雑誌廃刊の危機に立ち向かう編集長と部員たち、さらには各派が蠢き、内部抗争が激化していく…のだが、出版業界だけのトリビアルな話ではない。単なる“騙し合いバトル”と高を括っていると、足元からひっくり返されるだろう。野心はもっとデカい。この映画自体が観客を(いい意味で)欺きにかかってきているのだ。(ライター・轟夕起夫)
水の精ウンディーネが破滅的なヒロインになる現代の神話…『水を抱く女』(公開中)
美しい人間の女性の姿をしたウンディーネは、小説、音楽、演劇など多彩な分野の創作者にインスピレーションを与えてきた水の精霊だ。『東ベルリンから来た女』などのドイツ人監督、クリスチャン・ペッツォルトの新作は、ウンディーネを現代のベルリンに登場させたラブストーリー。博物館の歴史ガイドとして働く主人公ウンディーネが、潜水作業員クリストフの青年と情熱的な恋に落ち、自らの悲しい宿命と対峙していく姿を描き出す。ベルリンと郊外でロケ撮影を行い、水槽や貯水池などの“水”のイメージをちりばめた映像世界や、凶暴なまでに起伏の激しいストーリー展開からも目が離せない。激情型の破滅的なヒロインに扮した若手女優、パウラ・ベーラの妖しさにも魅了される現代の神話を、ぜひご覧あれ!(映画ライター・高橋諭治)
週末に映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて!
構成/サンクレイオ翼