アイドルから激ヤバなメタル史まで!ユニークな音楽映画を世に送り出す映画会社とは?
ここ数年、『ボヘミアン・ラプソディ』(18)に代表されるような有名バンドの内情を描いた伝記映画や、『ラ・ラ・ランド』(16)をはじめとしたミュージカル映画など、“音楽映画”が大きな存在感を放っている。数ある音楽映画のなか、一筋縄ではいかないようなユニークな作品を世に送りだしているのがSPACE SHOWER FILMSだ。
日本最大の音楽番組専門チャンネル、スペースシャワーTVの運営をはじめ、音楽レーベル、マネージメント事業、フェスの開催など音楽にまつわるあらゆる事業を手がけ、“スペシャ”の愛称で知られるスペースシャワーネットワーク。その映画レーベルが、SPACE SHOWER FILMSだ。
これまで交通事故によって記憶障害を負ったディジュリドゥ奏者のGOMAが復活するまでに密着した『フラッシュバックメモリーズ 3D』(13)や、アイドルグループBiSなどWACK所属アイドルたちにカメラを向けたドキュメンタリー。クリープハイプのライブを見に行くために、自転車を走らせ福岡から東京を目指す女子高生を描いた青春ドラマ『私たちのハァハァ』(15)など、アーティストやファンなど様々な方面から音楽を題材とした作品を手がけてきた。
また海外の映画の配給もしており、1960〜70年代イギリスの音楽ムーブメント“NORTHERN SOUL”を扱った『ノーザン・ソウル』(14)、Wu-Tang ClanなどのHIP HOPミュージックをバックに、カリフォルニアの15歳の少年が盗まれたスニーカーを取り戻そうと奮闘する『キックス』(16)など、良作でありながらもなかなか日本公開の機会がなかった作品を日本に持ち込んでいる。
ハロオタたちの青春を描く『あの頃。』
そんなSPACE SHOWER FILMSが関わっている作品でも、すさまじく振り幅がある2作が公開され話題となった。“ハロプロ”ことハロー!プロジェクトのアイドルたちが、絶大な人気を誇っていた2000年代初頭を舞台に、ひょんなことからアイドルにハマった主人公が、仲間とともにオタ活にのめり込んでいく日々を描いたのが『あの頃。』だ。
劔樹人のコミックエッセイ「あの頃。男子かしまし物語」を原作とした本作。6月18日(金)には、新規編集のメイキングをはじめ、約2時間に及ぶ特典映像集を収録したBlu-ray&DVDが発売されるので、劇場で見逃した人もチェックしてみてほしい。
夜な夜なライブのDVDを見ながらハロプロ愛を語り合ったり、布教活動に励んだりするファンたちの青春とその終わりまでをハロプロの楽曲とともに描いていく本作。製作にあたって原作者の劔が、かつての仲間たちとともに時代考証をしたり、当時のグッズを提供したりとハロプロへの愛が込められた作品となっており、ファンからも好評を集めている。また、なにかに夢中になったことのある人にも刺さる作品としてファン以外の評価も高く、誰もが楽しめる作品となっている。
なぜ若者たちは狂気に走ったのか?『ロード・オブ・カオス』
そんな青春模様とは打って変わり、血生臭い狂気の青春模様が描かれるのが『ロード・オブ・カオス』だ。2018年に制作され、なかなか日本に入ってこなかった本作は、ノルウェーの初期ブラックメタルシーンを題材に、その中心的存在だったバンド、メイヘムにスポットを当てた伝記ドラマだ。
ノルウェーのごく一般的な家庭で育った19歳のユーロニモス(ロリー・カルキン)は、親友のデッド(ジャック・キルマー)らとメイヘムとして活動をしていたが、ある日、デッドが頭を撃ち抜き自殺。発見者のユーロニモスは、親友の脳漿が飛び散る遺体の写真を撮り、そのことを喧伝することでシーンのカリスマとなっていく。レコードショップを開き、そこを根城に邪悪さを競い合うブラック・サークルを結成したユーロニモスだったが、ヴァーグ(エモリー・コーエン)の加入をきっかけに暴走に歯止めが効かなくなり、サークルは狂気の集団となっていく…。
ノンフィクション本「ブラック・メタルの血塗られた歴史」を原作としており、教会への放火や殺人といった彼らが起こしたショッキングな事件の数々がブルータルな描写とともに綴られていく本作。加えてバソリーのドラムとして当時のシーン内部にいたジョナス・アカーランド監督が、若者たちが暴走に至るまでの心情を繊細かつ大胆に活写。若者ならではの未熟さや意地の張り合いなど普遍的な心理も描かれており、不思議な味わいの作品となっている。
この2作のように、決して間口は広いとは言えないが、特定のアーティストのファン以外の人でも楽しめる普遍的な側面を持った作品をチョイスしているSPACE SHOWER FILMS。これらの作品をきっかけに、注目してみてほしい。
文/サンクレイオ翼