堤真一の恐怖に、震え上がったことがあるか…?“いい人”だけじゃない、名優の妙技に迫る
かすかな表情や目の動きで秘めた狂気を表現…盟友・SABU監督との再タッグ
『砕け散るところを見せてあげる』では、そんな堤の“いい人”というパブリックイメージを覆しているわけだが、そもそも、1990年代半ば~2000年代初期の活動では、エキセントリックな役を演じることが多かった。
しかも、その側面を引きだしてきたと言えるのが本作の監督を務めたSABUであり、彼の監督デビュー作『弾丸ランナー』(96)のほか、『ポストマン・ブルース』(97)や『MONDAY』(00)、『DRIVE ドライブ』(01)で主演し、チンピラや、ヤクザや警察に追われる人物など一癖も二癖もあるキャラクターを体現してきた。
今回、約20年ぶりとなるSABU監督作品への参加となった堤。これまでもダークな役での出演が多かったが、本作ではそのレベルが群を抜いており、彼が演じる玻璃の父親が登場した瞬間、作品の空気感は一変してしまう。
その衝撃の初登場は、帰りが遅くなった玻璃を清澄と彼の母親(矢田亜希子)が車で送り届けるシーン。のどかな田んぼのあぜ道を走っていると、前方に玻璃の父親が運転する(と思われる)車が現れ、彼女が「お父さ~ん!」と窓から顔を出して呼びかける。すると、その車はなにを思ったか猛スピードでバックし始め、清澄たちはわけもわからず慌てて回避することに。
厳密にはまだ堤は画面に登場していないのだが、物言わぬ車が急接近してくる様子は、スティーヴン・スピルバーグ監督の名作『激突!』(71)のトラックを思わせる迫力で、短い時間ながら観る者に「なにかがおかしい?」と思わせるには十分だ。
その後、車から降りた父親が玻璃を連れ帰ろうとするが、不穏な空気を感じ取ったのか、清澄の母親が世間話をして引き留めようとする。その際も、最初はかすかな笑みを浮かべながら返事しているのだが、何度も話しかけられるうちに苛立ちを見せ始め、内に秘めた異常な性質が見え隠れしている。
感情がない暴力…背筋が凍るクライマックスシーン
極めつけは、玻璃の父親のある秘密を清澄たちが知ってしまうクライマックスのシーン。突然、後ろから清澄に忍びよりゴルフクラブで後頭部を殴打し、倒れ込んだ彼の頭を堂々としたフォームのスイングで滅多打ちに。その目つきから悪意や喜びといった感情はいっさい感じられず、演技だとわかっていても思わず背筋が凍ってしまう。
近年の作品で堤が見せていた優しさや誠実さ、人間臭さはそこには皆無で、玻璃役の石井や、堤と共演歴の多い矢田も、「すごく怖かった…」と先月行われた本作の完成報告舞台挨拶で振り返っている。
久しぶりのSABU監督作品でこれまでのイメージを封印し、若い頃のソリッドさとも異なる、狂気に満ちた父親役という新たな扉を開いた感のある堤真一。『砕け散るところを見せてあげる』では、その狂気あふれる名優の妙技を、震えながら覗き見てほしい。
文/サンクレイオ翼
衝撃作に込められたメッセージを読み解く…『砕け散るところを見せてあげる』特集
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