フランス映画界のサラブレッドが明かす、『ラブ・セカンド・サイト』を生んだ運命的な“化学反応”とは?

インタビュー

フランス映画界のサラブレッドが明かす、『ラブ・セカンド・サイト』を生んだ運命的な“化学反応”とは?

「いま一緒に暮らしている妻と出会ってなかったら、僕はどんな人生を送っていたのだろうと不安に思うことがあります。たとえばそれが男だろうと女だろうと、また最愛の人でも同僚でも親友でもいい。“この人と出会わなかったら人生はどうなっただろう”という疑問の答えを探しているうちに、この映画の企画ができあがっていったのです」

フランスの映画サイト「ALLOCINE」が選んだ2010年代のロマンティック・コメディ映画ランキングで1位を獲得したファンタジックなラブストーリー『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』(5月7日全国順次公開)。メガホンをとったユーゴ・ジェラン監督は、主人公が自身と最愛の人の立場が逆転した"もう一つの世界"へと迷い込むというユニークな設定を持つ本作が生まれた経緯を明かしながら、その制作の過程にあったいくつもの運命的な“化学反応”を振り返っていく。

【写真を見る】古典の名作から『アバウト・タイム』まで!『ラブ・セカンド・サイト』に影響を与えたラブコメ映画とは
【写真を見る】古典の名作から『アバウト・タイム』まで!『ラブ・セカンド・サイト』に影響を与えたラブコメ映画とは[c]2018 / ZAZI FILMS – MARS CINEMA – MARS FILMS – CHAPKA FILMS - FRANCE 3 CINEMA – C8 FILMS

本作は小説家を目指すラファエルが、同じ高校に通うオリヴィアと運命の出会いを果たすところから始まる。やがて2人は結婚し、ラファエルはベストセラー作家として大成功。一方でオリヴィアは小さなピアノ教室を開き、ピアニストとしての成功を夢見ながらラファエルとのすれ違い生活に孤独を感じていた。ある日2人は大喧嘩になり、翌朝目を覚ましたラファエルは、自分がしがない中学教師になり、オリヴィアは人気ピアニストとして活躍する"もう一つの世界"に迷い込んでしまう。しかもその世界のオリヴィアは、ラファエルのことを知らなかった…。

ジェラン監督は、ジャック・ベッケル監督の『エドワールとキャロリーヌ』(51)やルイ・マル監督の『好奇心』(71)などで知られるフランス映画界の名優ダニエル・ジェランを祖父に持ち、父親は俳優やプロデューサーとして活躍したグザヴィエ・ジェランという名門一家で生まれ育ったフランス映画界のサラブレッド。長編監督デビュー作となった『Comme des frères』(12)で第38回セザール賞新人監督作品賞にノミネートされ、続く『あしたは最高のはじまり』(16)がフランス国内で大ヒットを記録。本作が長編映画の監督としては3作目となる。

ラブコメとファンタジーが融合!「いくつものジャンルを混ぜ合わせると豊かな作品になる」
ラブコメとファンタジーが融合!「いくつものジャンルを混ぜ合わせると豊かな作品になる」[c]2018 / ZAZI FILMS – MARS CINEMA – MARS FILMS – CHAPKA FILMS - FRANCE 3 CINEMA – C8 FILMS

「もともと描きたかったのはラブストーリーで、そこにちょっとだけファンタジックなSF要素を付け加えることに興味がありました。ラブストーリーでありながらコメディでもあり、さらにプラスアルファといったように、いくつものジャンルを混ぜ合わせることで、とても豊かな作品になるということを確信していました」と語ると、本作を手掛ける上で影響を受けた作品として“ラブストーリー”と“コメディ”、“ファンタジー”の3つのジャンルが融合した秀作のタイトルを次々と列挙していく。


ビル・マーレイが主演を務め、同じ1日を繰り返していく男の姿を描いた『恋はデジャ・ブ』(93)をはじめ、スタイリッシュな映像表現で恋愛の記憶をたどっていく『エターナル・サンシャイン』(04)。タイムリープ作品として日本でも人気の高い『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』(13)から、AIとの恋を描いた『her/世界でひとつの彼女』(13)、そして古典の名作『素晴らしき哉、人生!』(46)まで。「物語をファンタジーに載せると、人間のシンプルな側面が映画的なものになっていきます。それぞれのジャンルの規則のようなものをリスペクトしながら、本作に取り入れていきました」。

着想から約10年かけて本作を形にしたユーゴ・ジェラン監督(右)
着想から約10年かけて本作を形にしたユーゴ・ジェラン監督(右)[c]2018 / ZAZI FILMS – MARS CINEMA – MARS FILMS – CHAPKA FILMS - FRANCE 3 CINEMA – C8 FILMS

構想から実現までに要した期間は約10年。「まずは時間をかけてストーリーを練り上げていきました。最初はダヴィド・フェンキノスと一緒に書き始めたのですが、この時はまだ期が熟していなかったのでしょう。現実感のある話に落とし込むことができませんでした。それから1年半経って、今度はベンジャミン・パレンとタッグを組みました。ダヴィドと考えたアイデアを残しつつも一からやり直して、草稿を仕上げてからプロデューサーのステファヌ・セレリエも加わり、キャラクターや全体の雰囲気、テーマなどについて話し合っていきました」と、作品の輪郭が見えてくるまでの試行錯誤を振り返る。

そして「いざ脚本やセリフを書く段階で、今度は以前僕がプロデュースしたドラマシリーズで知り合ったイゴール・ゴッテスマンに協力してもらいました。現実ベースのディテールを大事にしながらも、笑いが満載の情感たっぷりのラブコメをやりたいと思い、そしてなによりもコメディとロマンスが同じくらいのバランスで成立する映画を目指しました。セリフも笑えるシチュエーションも心情描写も充実している脚本を妥協せずに追求するために、何バージョンも脚本を書いていきました。その甲斐あって、笑いながら『愛している』と言えるような脚本になりました」と、何人ものアイデアがひとつになって形作られていったことを明かす。1人でも欠けていたらまったく異なる映画になっていたかもしれない。それはまさに本作のテーマにも通じる運命的なものと言えよう。

本作での共演がきっかけで私生活でも交際に発展した2人。息の合った演技は必見!
本作での共演がきっかけで私生活でも交際に発展した2人。息の合った演技は必見![c]2018 / ZAZI FILMS – MARS CINEMA – MARS FILMS – CHAPKA FILMS - FRANCE 3 CINEMA – C8 FILMS

また本作ではもうひとつ、主人公のカップルを演じるフランソワ・シビルとジョセフィーヌ・ジャピの息ぴったりの掛け合いが作品の魅力を高める重要な役割を果たしている。本作の撮影を通じて、私生活でも交際に発展したというシビルとジャピ。ジェラン監督はクランクイン前に2人と一緒にプラハへとでかけ、同じアパートで数日間を過ごしたという。「一緒に時間を共有することによって化学反応を起こすことが、本作ではとくに重要でした。もっともそれは自然に発生するものなので、大きな賭けでもありました」。

その“化学反応”を逃さないため、ジェラン監督はプラハにプロ仕様のカメラを持ち込み自ら2人の姿を撮影したという。「彼ら2人をカップルとして撮ろうとあらかじめ決めていました。2人にはまだやりにくければ遠慮なく言ってくれとお願いしましたが、想像よりも早く求めていたような化学反応は生まれました。そこで撮影した映像は、実際に本編の序盤シーン、ラファエルとオリヴィアの10年間を一気に見せるシーンで使っています」と、大きな賭けに成功して生まれた唯一無二の瞬間に、たしかな手応えをのぞかせていた。

構成・文/久保田和馬

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