偉大な功績も納得！サー・アンソニー・ホプキンスら称号を持つ「国宝級」の名優たち

第93回アカデミー賞で、見事に2度目の主演男優賞に輝いたアンソニー・ホプキンス。今年の授賞式で、彼の受賞はサプライズのひとつとなったが、『ファーザー』の演技を観れば、この受賞に納得しない人はいないだろう。認知症のアンソニー(役名も同じ)が、周りをどんな風に見て、どう受け止めているのか。その“感覚”を表現した『ファーザー』。目の前にいる知人が誰なのか、いま自分がいるのは自宅なのか。すべてが曖昧になり、アンソニーは戸惑いや悲しみ、怒りをあらわにする。一方で、過去を思い出して軽々とダンスを披露したかと思えば、病状が進む終盤では、人格も一変したかのような衝撃の瞬間も…。様々な演技のバリエーションを、認知症の言動に合わせて自在に繰り出してくる。まさに神業のようなホプキンスのテクニックに、誰もが引き込まれ、自分自身が失われていく主人公の悲哀や恐怖を体感することになるのだ。

こうしてつねに奇跡レベルの名演技をみせてくれる彼のことを、人々は敬意を込めて「サー・アンソニー・ホプキンス」と呼ぶ。「サー＝Sir」は、英語圏で名前のわからない大人の男性に、「すみません」のような呼びかけで使われるが、特定の人物の頭につく際は、その人が「ナイト」の叙勲を受けたことの証である。

イギリスでは、様々な分野で多大な功績を評価された人に、大英帝国勲章が与えられる。日本でいえば紫綬褒章のような栄誉だが、大英帝国勲章には5つのランクがあり、そのうち上位2つに「ナイト」の称号がついている。ナイトを受けた文化人を、これも日本で例えるなら、人間国宝に近いかもしれない。アンソニー・ホプキンスは1993年、55歳で大英帝国勲章の上位2階級を授与された。

ナイトの男性の敬称はサーで、女性はデイム(Dame)。敬称は「サー・アンソニー・ホプキンス」「サー・アンソニー」のように使われ、「サー・ホプキンス」とファミリーネームに付けるのは誤りだ。

ホプキンス以外に、これまでナイトの叙勲を受け、「サー」で呼ばれる俳優には、イアン・マッケラン(1994年授与。以下、年号は授与の年)、マイケル・ケイン(2000年)、ベン・キングズレー(2002年)、ダニエル・デイ＝ルイス(2014年)らがいる。監督ではリドリー・スコット(2003年)。昨年亡くなったショーン・コネリーは、スコットランドの分離独立を支持していたので、ナイトの授与を何度も拒否。ようやく2000年に受け入れるも、授与式にはスコットランドの正装であるキルトで現れた。

そして「デイム」にはジュディ・デンチ(1988年)、マギー・スミス（1990年)、ジュリー・アンドリュース(2000年)、エリザベス・テイラー(2000年)、ヘレン・ミレン(2003年)、エマ・トンプソン(2018年)らがいる。また、伝説の名優、サー・ローレンス・オリヴィエは、1947年にナイトを授与され、1970年には「ロード」という貴族の爵位が与えられており、別格である。

ダニエル・デイ＝ルイスの主演男優賞3回を筆頭に、ここに挙げた「サー」や「デイム」の俳優は、すべてアカデミー賞受賞者。エリザベス・テイラーは多くの映画ファンにとっては「ハリウッドのレジェンド」という存在だが、イギリス出身であることを、この叙勲が再認識させてくれた。

このように基本的に英国王室がイギリス人や、旧イギリス連邦の国民に授与するナイト。しかし、イギリスのエンタテインメントへの貢献でスティーヴン・スピルバーグ監督(2001年)、人道支援活動でアンジェリーナ・ジョリー(2014年)にも与えられ、これらは「名誉爵位」として扱われている。映画界以外で海外のケースでは、その他に、ビル・ゲイツ(実業家)、三宅一生(ファッションデザイナー)、ペレ(サッカー選手)など多分野にわたる。

「サー」「デイム」は文字どおり「国宝級」のスターたち。尊敬の念をもって彼らの演技に接することで、実力と経験が醸し出す神々しい瞬間と出会えることだろう。ぜひ『ファーザー』で、その体験を味わってほしい。

文/斉藤博昭