吉永小百合、広瀬すずと『いのちの停車場』のロケ地、金沢へ「一生忘れられない映画になりました」
「コロナ禍での撮影で、より深くこの映画のテーマを考えるようになりました」(吉永)
吉永は、劇中で着た加賀友禅の着物についても「たぶん初めて着用させていただきました。今回の映画のスタイリストさんが、お正月のシーンで咲和子が加賀友禅を着たらどうかしらと監督に提案してくださって、作家の方に作っていただきました。とても着心地が良くて、優しい気持ちになれる加賀友禅の風合いでした」としみじみ語った。
また、広瀬と共演した感想を尋ねられた吉永は「私はすずちゃんが出演していた『怒り』を観て、すばらしい女優さんだと思っていたので、今回ご一緒できて大変良かったです。でも、これからはあまりテレビにたくさん出ないで、映画にいっぱい出てほしいなと切に願っています」と言うと、会場から笑いが起こる。
広瀬も照れながら「私は映画やドラマ、舞台と全部、挑戦してきましたが、自分にとっても映画は特別な存在なので、吉永さんを見ていると、本当に映画の道ってあるんだなと思いました。だから吉永さんにそう言っていただいたら、『はい!』とつい言ってしまいそうになります」とおちゃめに笑った。
また、コロナ禍で撮影した苦労について聞かれると、成島監督は「我々全員が初めての体験でしたから、やはり大変でした。俳優陣は本番ではマスクができないので、飛沫も避けられず、日々戦いでした。僕は普段だとテストを繰り返し、本番も何度かテイクを重ねるタイプですが、今回はそれができなくて…」と葛藤をにじませる。
「ただ、唯一良かったのは、一発OKを目指すことがみんなの目標となり、すごく集中できたことです。吉永さんがテストの1回目から完璧に仕上がっていて、すずちゃんや(松坂)桃李くんがその背中を見るので、本番はいつも1回目からものすごい集中力でした。これが、全員で闘うという方法論なんだと感じ、やはり吉永さんという座長が現場を引っ張っていってくれたことが、演出家としてありがたかったです」と吉永に心から感謝する。
同日の夕刻には、北國新聞赤羽ホールでの試写会も開催。感染予防対策で間引きされた客席からは、涙をすする声も響いてきた。上映後の舞台挨拶では、再び3人が登壇し、金沢ロケで印象的だったシーンについてクロストーク。
吉永が「私は最後にすずちゃんと話すシーンです。私が抱きしめるシーンですが、雪が降っていて、金沢らしい風情があり、忘れられないシーンとなりました」と咲和子と麻世のシーンをピックアップ。広瀬も同シーンを挙げ「吉永さんが抱きしめてくださるんですが、抱きしめる強さが毎回違っていて、麻世として受けとめるものがいっぱいありました」とうなずく。
成島監督も「あれは最後の最後に撮影したので、2人とも咲和子と麻世に完璧になりきっていて、特別に僕がなにかを演出したということはなかったです。ただ、東京で試写をしたら、『あれはセットでしょ』と言われて、ショックでした。あれは金沢の街角ですが、あまりに完璧な構図なので、知らない人からは、セットだと思われたみたいです」と苦笑いし、会場の笑いを誘った。
いよいよ5月21日(金)より公開される『いのちの停車場』だが、吉永は、コロナ禍で撮影したからこそ特別な感情がこみあげてきたと言う。
「昨年の春先から大変な想いをなさっている方たちが溢れていて、そういうなかで映画を作るということで、作る側も緊張しましたが、より深くこの映画のテーマを考えるようになりました。家族や友達と手を取りあって、しっかりと前を向いて生きていく。心と心が通じ合って生きていくことの大切さをとても感じました。それは私にとっても大きな財産になっていますし、一生忘れられない映画となりました」。
取材・文/山崎伸子