北野武、大林宣彦、デ・ニーロ…伝説のプロデューサー奥山和由が、新たな波乱を呼ぶ『女たち』へ至る道のり
新鋭から名匠まで信頼する映画界の革命児
異能と手を組む一方で、藤田敏八、神代辰巳、深作欣二、五社英雄、今村昌平ら名だたる名匠とも映画作りを共にし、『うなぎ』(97)では今村監督に2度目となるカンヌ国際映画祭のパルムドールをもたらした。同作は若手発掘および海外進出を目的として奥山が立ち上げたプロジェクト「シネマジャパネスク」から生まれた名作で、このプロジェクトでは若き時代の阪本順治、黒澤清、行定勲、原田眞人ら現在の日本映画界を牽引する面々もしのぎを削った。
2000年代突入後も奥山は映画作りに邁進。藤井道人、深田晃司、武正晴ら新進気鋭組を羽ばたかせ、表現の場を与えている。同時にベテランの中島貞夫や大林宣彦、伊藤俊也ともアグレッシブな作品で徒党。大林監督の遺作となった『海辺の映画館-キネマの玉手箱』(20)は国内で数多くの映画賞を受賞した。俳優からの信頼も厚く、樹木希林は自身初の企画作『エリカ38』(19)を奥山に託し、桃井かおりも奥山のもとで『火 Hee』(16)を監督。旧知の仲であるハリウッド俳優ロバート・デ・ニーロも一目置く、キャリアも軌跡もまさしくレジェンダリーなプロデューサーなのだ。
奥山印が鮮明に刻印される新作『女たち』
新作『女たち』は、そんな奥山が母体とするチームオクヤマ結成25周年記念作にして、『GONIN2』(96)以来およそ25年ぶりに奥山が女性たちの物語を中心に置いた意欲作。非アクション映画にもかかわらず、画面に映る女たちの感情の躍動は実にアクション映画的。髪を40センチもカットし撮影に臨んだ倉科カナが土砂降りの夜の雨の中で狂死へと向かうシーンは『GONIN』を彷彿とさせる。共依存関係がもたらす篠原ゆき子と高畑淳子親子の愛憎劇は限界ギリギリの熱演も相まって、激しくも哀しい人間ドラマとして胸に迫る。クライマックスに用意される篠原VS高畑の衝突には奥山自身も「二大怪獣大決戦!」と並々ならぬ思い入れがある。
撮影が敢行されたのは、2020年7月のコロナ禍真っただなかで、公開も奇しくもコロナ禍只中。これまで奥山が手掛けてきた映画作品には数々の「まさか!?」があったが、『女たち』にもそれは当てはまりそうだ。まさか映画のなかの世界が現実世といまだ地続きになっているとは、撮影当時誰も思いもしなかったことだろう。その意味では、本作には奥山印が鮮明に刻印されている。主演の篠原曰く、奥山は「波乱を呼ぶ男」。映画界の革命児が関わる作品だけに、これから先も『女たち』の存在感をさらに高める「まさか!?」な波乱がありそうだ。
文/石井隼人