アンチエイジングの最先端!『Arc アーク』で描かれる「不老不死」実現の可能性は?|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
アンチエイジングの最先端!『Arc アーク』で描かれる「不老不死」実現の可能性は?

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アンチエイジングの最先端!『Arc アーク』で描かれる「不老不死」実現の可能性は?

老化防止の研究が進み「不老不死」が実現した世界で生きる、永遠の命を得た女性の人生とは…。映画『Arc アーク』は、観る人それぞれに、様々な想いや問いを抱かせる、刺激的かつ深遠なSFエンタテインメントだ。中国系アメリカ人作家ケン・リュウの同名短篇小説を、『愚行録』(17)、『蜜蜂と遠雷』(19)の石川慶監督が映画化した。

人類史上初の不老化処置を受け、永遠の命を得たリナ(芳根京子)
人類史上初の不老化処置を受け、永遠の命を得たリナ(芳根京子)[c]2021映画『Arc』製作委員会

これまで「不老不死」というテーマは、人間にとっての“夢物語”として、数々のSF作品で繰り返し描かれ続けてきた。だが今年1月、東京大学医科学研究所の研究チームが、臓器や血管などの機能を低下させる「老化細胞」を除去する方法を発見。老齢マウスを使った動物実験により、老化現象を改善させる効果を確認したことを、アメリカの国際科学雑誌「Science」に公表した。

いつか人類は本当に「老い」や「死」を克服することができるようになるのだろうか――。老化細胞による発がんや加齢の制御について研究を進める、東京大学医科学研究所の中西真教授に、最先端の老化防止研究の“リアル”を伺った。

――映画をご覧になった感想はいかがでしたか?

「非常におもしろかったです。科学的に見た時に、いろんなところに、なるほどと納得できるようなことがちりばめられていて。現実の老化防止研究のことを、とてもよく勉強された方が作った内容だなと思いました」

――本作に登場する、老化防止の研究を進めている天音(岡田将生)というキャラクターは、人体に新しく開発された細胞を流し込み、細胞分裂を永久に繰り返すことで若い身体のまま生き続けることを実現化します。先生から見て、この発想はどのように思われますか?

リナのパートナーとなるストップエイジングの研究者、天音(岡田将生)
リナのパートナーとなるストップエイジングの研究者、天音(岡田将生)[c]2021映画『Arc』製作委員会

「とても理に適っていますね。劇中、不老不死の施術を受けた主人公のリナ(芳根京子)が、ある液体を体内に入れるシーンがありますが、ここで入れているのは、おそらくステムセルという幹細胞だろうと思っています。ステムセルは、失われた組織や器官を再構成することができる細胞です。

映画のなかにもチラッと出てきたかもしれませんが、このステムセルが体内に散在している『ヒドラ』という小さな刺胞動物がいます。このヒドラは少なくとも3000年以上は生きるのではないかと言われており、不老不死にかなり近い生物として研究が進められているのです。だから人間の場合も、そういった細胞を補充すれば、不老不死を作り出すことができるのではないか、という発想で描かれたのだろうなと思いました」

リナに不老化処置を施す天音
リナに不老化処置を施す天音[c]2021映画『Arc』製作委員会

――現在、日本の平均寿命は、100年前の平均寿命と比較して、1.5倍以上の伸び率です。そこまで延びた要因として、どんなことが考えられますか?

「医療技術の進歩と、食生活などが整備されたことによるものですね。ただし重要なポイントは、人間の個体としての生存期間である“最大寿命”は、実はそれほど大きく変わっていないことなんです。昔から100歳を超えて生きる人はいましたが、現代でも人間は120歳を超えて生きることはできないと言われています。平均寿命の延びと比べて、最大寿命の延びはほとんどない、ということが、老化の大きな特徴だと思います」

リナは不老化処置を希望しない人々が集う施設で、ある老人に出会う
リナは不老化処置を希望しない人々が集う施設で、ある老人に出会う[c]2021映画『Arc』製作委員会

――先生の研究チームは、細胞分裂が止まったまま生き残る「老化細胞」を除去する方法を発見されました。どのようなものか、簡単に教えてください。

「今回の研究で、老化細胞の生存に必須となるのが“GLS1”という遺伝子であることを突き止めました。そこで、正常な細胞と老化細胞に、それぞれGLS1の働きを阻害する薬剤を添加したところ、老化細胞だけが死滅することが判明したのです」

――老化細胞を除去する薬剤を投与することで、期待される効果とは?

「体内に老化細胞が蓄積すると、様々な器官の機能が低下しますが、この薬剤によってこれらを防ぐことができると考えています。また、日本人の死因の第一位であるガンは、加齢が大きな危険因子となっているため、老化細胞を除くことで、加齢に伴って生じる発ガンも抑制されるのではないかと期待されています。そのほかにも、動脈硬化の抑制や腎臓機能の向上にも大きな効果があったほか、落ちた筋力も正常に近づけることができました」

リナは若い姿のまま、永遠の命を生きていくことに
リナは若い姿のまま、永遠の命を生きていくことに[c]2021映画『Arc』製作委員会

――外見的にも、その効果が表れるようになるのでしょうか?

「老齢のマウスに投与した場合は、毛が抜けたり、背骨が曲がったりといった、様々な老化の表現に改善が見られました。人に投与した時にどうなるかは、まだまったくわかりませんけれども。美容面にも影響が出る可能性は十分にあると思います」

――映画のなかでは、はっきりとした若返りはなく、基本的に処置を受けた時点の年齢で止まっているという設定でした。今回の老化細胞を除去する薬剤の場合はどうなりますか?

「どこまで若返るか、というのは非常に難しいですね。実は老化には2種類の仕組みがあるんです。一つは最大寿命を決める仕組み。もう一つは、歳を取ってからの機能低下や病気を決める仕組み。今回の我々の研究は、最大寿命については関与しませんが、映画のなかで描かれていたのは、その両方を合わせたものだったと思います。実際は、その2つはまったく違った仕組みで制御されているので、その点はサイエンス・フィクションなのかなと思いました。

不老化処置のシーンもリアリティのある映像に
不老化処置のシーンもリアリティのある映像に[c]2021映画『Arc』製作委員会

ただ、僕にとってすごく印象的で、この映画の制作者はよく勉強されているなと思ったのは、主人公が不老不死の施術を受けた後に、ホクロがすーっと消えるシーンです。多くのホクロは老化細胞の集合体なので、ホクロが消えるシーンによって、老化細胞を取り除いていることを暗に伝えているのかなと思いました」

■中西真
東京大学医科学研究所 癌・細胞増殖部門 教授。正常細胞に備わった発がん防御システムを解明し、革新的ながん予防・治療法の開発を目指す。とりわけ、発がんシグナルによる細胞老化誘導機構、老化細胞による発がんや加齢制御、エピゲノム異常による発がん誘導機構を中心に解析を進めている。

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