『モータルコンバット』と『鬼滅の刃』が全米で散らした火花。ハリウッドを復活させた王道エンタメの“共通点”
家族のために戦え!出会いと成長、そして激しいアクション
胸にドラゴンの傷を持つ主人公コールは、自分の生い立ちを知らぬまま総合格闘技の選手として生きてきた。そんな彼の前に魔界からの刺客が現れたことから、家族に危険が及ぶことを察知。特殊部隊の少佐であるジャックスと戦士のソニアと合流し、地球の守護者であるライデンの寺院へと向かう。そこでコールは自分が魔界の敵と戦うために選ばれた戦士であることと、古くから行われてきた格闘トーナメント“モータルコンバット”の存在を知らされる。そして世界を救うため、仲間たちとともに死闘に備える訓練に励むことに。
前述した通り、最初の週末で興収ランキングの1位を獲得した『モータルコンバット』。HBO Maxでの試聴数はスマートTVに限定しても3日間で380万回と『ゴジラvsコング』を上回る数字が報じられており、PC視聴などを含めればそれ以上の視聴数を叩き出しているとみられている。映画館と家庭、その両方で大きな反響を集め、しかも『鬼滅の刃』としのぎを削ったとあれば、これは只者ではない。
鬼によって家族を惨殺された主人公の竈門炭治郎が、生き残ったものの鬼と化してしまった妹の禰豆子を人間に戻す方法を求め、鬼殺隊に入隊して鬼との戦いを重ねていく姿を描く「鬼滅の刃」。テレビアニメシリーズの続きのエピソードが描かれた『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』では、短期間のうちに大勢の行方不明者を出している無限列車を舞台に、炭治郎と仲間たちは鬼殺隊最強の剣士である煉獄杏寿郎とともに鬼に立ち向かっていく。
家族のために悪と対峙することを選ぶ主人公と、切磋琢磨し合う仲間たちとの出会い。そして戦いを通して成長していく主人公。これらは『鬼滅の刃』と『モータルコンバット』の両作に忠実に通じ合い、しかもどちらも勧善懲悪の概念のもとで繰り広げられる激しいバトルシーンが見どころとなり、刀を使った立ち回りという伝統的な映画的魅力も有している点でも共通点があるのは興味深いところだ。
また、オープニング週末に2000万ドル以上の興収を記録する作品が2作品も同週に現れるというのは、コロナ禍以降では初めてのことであった。そのため両作品が公開された週末は、全体的に見てもコロナ禍で最高の興収を叩き出すことに。奇跡的な一致を遂げた日米を代表するバトルアクションが、フラストレーションを抱えた多くの観客の心をわしづかみにするだけでなく、苦境のなかにあったアメリカの映画界そのものを盛り上げる大仕事をやってのけたのである。
暗いニュースや不安な日々があまりにも長く続いているいまだからこそ、ちょっとばかし刺激が強くても、それを吹き飛ばしてくれるような突き抜けた娯楽映画は必要不可欠だ。先日、劇中で“ずっと目が光ってる”ライデン役を演じた浅野忠信は、自身のTwitterで「何も考えずにみてください」と、徹底的に娯楽色を貫いた本作の魅力を投稿。
通常の上映はもちろんのこと、作品の世界に没入できるIMAXやドルビーシネマ、体感型の4DXもまだ上映している劇場があるいまのうちに、『モータルコンバット』の“禁断”の世界にどっぷりと浸ってみるのも一興だろう。
文/久保田 和馬
※禰豆子の「禰」は「ネ+爾」が正式表記
※煉獄杏寿郎の「煉」の漢字は「火+東」が正式表記