自分にとって大切なものを考え始めた宮間だが…/脚本家・徳永友一 第10回「別れは“突然”がセオリー」【未成線~崖っぷち男たちの逆襲~】
『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~ ファイナル』(8月20日公開)や、中川大志主演の日曜ドラマ「ボクの殺意が恋をした」(7月4日スタート)の脚本家・徳永友一が初めて手掛けるオリジナル小説を、「DVD&動画配信でーた WEB」が特別連載!
脚本家を目指す中年男・吉野純一、若手脚本家として闘う男・宮間竜介、2人を巧みに操る男・滝口康平、3人の男のリアリティドラマが始まる。宮間は連日の吉野との不毛な打ち合わせと、滝口の指示で苛立ち、疲れがどんどん溜まっていく。そんななか、昨夜喧嘩した彼女の渚からLINEが届く。
第10回「別れは“突然”がセオリー 宮間編」
明け方、5時。カメラを回しての打ち合わせが始まる。吉野さんが寝ずに考えたという3本のプロットを見せて来た。ここは正直な感想を言ってやろうと思った。
「……いや、どれもキツイと思いますが」
「え?」
え?じゃないだろ。これでいけると思ってるのか!?イライラはマックスに達していた。ふと、カメラの側に立っている滝口プロデューサーが目に入った。こっちを笑いながら見ている。何笑ってんだよ!?ふと渚の言葉が頭をよぎった。
「今からでも断れないの?」
不毛な打ち合わせを終え家に戻って来た。全身が重く感じられ、すぐベッドに横になったその時、渚からLINEが届いた。「おはよう。今夜会える?」と画面に表示される。ちゃんと渚に会って謝らなければ……。そう思いながら眠りに落ちた。
午後9時。渚と二人でカフェに来ていた。
「ごめんなさい」
「え?何が?」
「もう別れよう」
「え?」
渚は会った時から硬い表情で、飲みに行こうと言う誘いも断り、このカフェに来ていた。何となく嫌な予感はしていたが、まさか別れ話だとは思わなかった。
「どうしたの?昨日のことなら本当に悪かったと思ってる」
「違う。昨日だけじゃない。ずっと考えていたことなの」
「え?」
「ずっと、我慢してた」
「悪いと思ってるよ。デートも旅行も連れていってあげれてないし、いつも仕事優先で渚のこと放ったらかしにしてて」
「それは全然いいよ。本当に忙しいの見ててわかってたから」
「じゃあ、何で!?」
「竜くんの言う通り、私そっちの業界のことわからないから、何が大変なのかとか理解してあげられないし」
「そんなの別にいいって」
「それに、将来のこととか色々考えたら、やっぱ違うかなって」
「違うって?」
「結婚。する気全然ないでしょ?」
「……いや、まだそう言うの考えてはいなかったけど」
「だよね。竜くんは結局自分が一番がかわいいんだよ」
「何だよ、それ」
「私はもう無理だから。今までありがとう」
そう言うと立ち去って行く。
「渚……?」
ここはドラマみたいに走って追いかけてみるか?そうは思ったが立ち上がることができなかった。ただ去って行く渚の背中だけを見つめていた。その夜。家で一人、酒を飲んだ。何をやってるんだ俺は。久しぶりに泣いて、初めて渚の気持ちを考えた。渚が何に喜び、何に悩んでいたのか、聞いたこともなかったし、はっきり言って興味もなかった。「結局自分が一番がかわいいんだよ」と渚に言われた言葉が胸に刺さる。その通りだと思った。今までずっと自分本位の付き合いをしていたんだ。
三日後。六本木の脚本家スクールにいた。
「送ったプロット読んで頂けましたか?」
吉野さんから聞かれ、メールが来ていたことを思い出した。
「ああ、はい」
「どうでしたか?」
「感想はカメラの前でって言われてるんで……」
吉野さんは明らかに不機嫌な顔をしている。
「あ、すみません。滝口さんから電話なので出ます。もしもし?」
電話をしている吉野さんの顔が綻んでいくのがわかる。
「はい!よろしくお願いします!」
「宮間さん。スクール後に、プロット打ちするそうです。カメラのスタンバイはもうできてるって」
またあの不毛な打ち合わせが始まるのか……。TV局の会議室にカメラが入っていた。カメラの横には滝口プロデューサーがいる。
「じゃあ、宮間さん。プロットの感想をお願いします」
遠慮することは何もない。思ったことを口にする。
「これって、どっかで見た設定をつなぎ合わせた感じですよね?」
「どっかって?」
「『清掃業者で働いている冴えない中年男が雷に打たれ、超能力を使えるようになる。時間を止めたり、眼力で目の前の物を破壊できたりするようになる』これって、アメドラの『ストレンジャー・シングス』っぽいですよね?」
「いや、違いますよ?」
「それに、『そんな時、同じく雷に打たれてゾンビになった女子高生が街を荒らし始める』って、こっちはアメドラの『ウォーキング・デッド』ですか?」
「違いますって」
「いや、刺激を受けるのはいいと思いますよ。でも、前にも言いましたが、潤沢な予算があるから成立している話であって、日本のドラマの予算じゃ、絶対にああはなりませんから」
「心外ですよ。まるで、ただアメドラからパクっただけのアイデアみたいな言い方」
「今の脚本家は予算配分も頭に入れながら、書けなきゃダメなんです。好き勝手書きたければ、漫画家や小説家になった方がいいと思います」
「何でそんなこと言われなきゃならないんですか?そんなに新しい才能を早いうちから潰しておきたいんですか?」
自惚れるのもいい加減にしろ!何なんだ、このおっさんは。ふと、滝口プロデューサーを見る。やはり笑っていた。まるでこの対立を楽しんでいるように見えた。
(つづく)
1976年生まれ、神奈川県出身。TVドラマ「僕たちがやりました」(17)、「海月姫」(18)、「グッド・ドクター」(18)、「ルパンの娘」シリーズを手掛け、映画『翔んで埼玉』(19)で日本アカデミー賞最優秀脚本賞受賞。『かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~ ファイナル』(8月20日公開)、映画版『ルパンの娘』(10月15日公開)が待機中。