江野スミ&古屋兎丸による劇中漫画にも注目。『キャラクター』美術のこだわりに迫る
話題の新作が次々と公開されるなか、現在も大ヒットを続ける菅田将暉の主演作『キャラクター』(公開中)。本作は成功を夢見る漫画家の奇妙で残酷な運命を描くサスペンス・ミステリー。リアルな漫画家像を体現した菅田の役作りも見事だが、今回は主人公の“キャラクター”に深みを持たせている、美術のこだわりに迫りたい。
「もしも、売れない漫画家が殺人犯の顔を見てしまったら?しかも、その顔を“キャラクター”化して漫画を描いて売れてしまったとしたら?」。本作は、そんなアイデアを基軸に、漫画家と殺人鬼、そして真相を追う刑事たちの交差する物語が展開される。猟奇的なシリアルキラー役には、演技初挑戦となるSEKAI NO OWARIのボーカル、Fukaseを抜擢。浦沢直樹と共に「20世紀少年」や「MASTERキートン」でストーリー共同制作をしてきたコミックス界のレジェンド、長崎尚志が、原案&脚本を担当し、構想10年をかけて練り上げたオリジナルストーリーだ。
「当たればスゴイ!」…仕事部屋の変遷に感じる漫画家の成功
菅田が演じるのは、アシスタントと売り込み用の作品作りで昼も夜も働く漫画家志望の山城圭吾。本作では、彼の人物像を掘り下げるための美術も徹底した作り込みがされている。冒頭シーンでは、団地の薄暗い六畳間で汚れたGペンを握り、本棚代わりのカラーボックスに囲まれながら、徹夜で机に向かう山城の姿が。貧しさや、なかなかチャンスが掴めないことに焦りを募らせる若者の悲哀がひしひしと伝わってくる。
一転して、殺人鬼をモデルにした主人公、ダガーが暗躍する新作漫画で成功者となった山城は、吹き抜けのモダンなリビングが特徴の超豪華なタワーマンションに自宅兼仕事部屋を構える。ロフト部分に設置された広々とした仕事部屋は、大きなデスクに最新型PCやペンタブレットを備える豪華仕様。なかでも目を奪われるのは、一面にイラストや写真、地図、メモが張り巡らされた壁で、シリアルキラーの犯行を描くための資料を確認することができる。この雑然とした禍々しいアイデアボードは、まさしく自身が描く漫画に心を蝕まれていく山城の心を表すよう。
居酒屋や編集部など漫画家の周辺スポットも登場
そんな山城が心の拠り所にしている行きつけの居酒屋「十三番地」のロケセットもクオリティが高い。前述した長崎も「漫画家が好きそう!実際にこういうところに行くんですよ(笑)」と認めるほどの出来栄えで、雑多で無国籍な雰囲気と、気さくな店主と濃いめハイボールが魅力の店になっている。
悩みやプレッシャーを一時的に忘れさせてくれる十三番地は、埼玉県深谷市にある店舗跡を利用して撮影した。その後に入るテナントがこのセットを気に入り、「そのまま使いたい!」と申し出たというこぼれ話も。
このほか、デビュー前の山城が作品を持ち込む出版社の場面は、長崎の古巣である小学館の「ビックコミックスピリッツ」編集部で撮影を敢行。原稿や企画書が散乱するオフィスには、活気と緊張感が漂い、劇中では実際に幾多の新人漫画家の運命を決してきたであろう打ち合わせテーブルで、山城が担当編集者による辛辣な批評で打ちのめされる様子も。シビアな業界模様にリアリティを加味している。