「中国には、ウルトラマンのような知的財産が必要」全世界興収記録を打ち立てた監督が語る、映画産業の課題とは?
「興収記録を成し遂げられた理由は、3つあると思います」
それにしても、全世界オープニング興収が、あの『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)の数字を塗り替えたことは、映画業界における“事件”だったが、チェン監督自身はかなり冷静に受け止めていた。
「確かにここまでの数字をたたきだしたことは自分自身も予測していなかったけれど、その理由は3つあると思います。1つ目は『唐人街探偵』シリーズにはすでに中国で既存のファンがついていて、3作目も楽しみにしてくれていたこと。2つ目はコロナ禍において、ようやく中国で映画館が再開し、多くの人々が足を運んでくれたこと。そして3つ目は公開時期が旧正月、すなわち中国の春節の時期だったことです。もともとこの時期に中国で公開される映画は興行収入が跳ね上がるので、公開初週が世界一になったんだと思います」。
確かにその3つの要素はすべてうなずけるが、それだけではない要素があるはず。1作目ではタイのバンコク、2作目はアメリカのニューヨークでロケを敢行したが、チェン監督によると「日本を含めて3つの国はすべて僕が映画をとても撮りたい国、何度も行きたい国ばかり。3都市とも、いろんな機能を備えたすばらしいところです」と強調したうえで「今回の日本編は特に力を入れました」と明かす。
「『唐人街探偵』シリーズの特徴としては、作品ごとに違う国を舞台に、ご当地の文化などを劇中に織り込んできました。日本の場合は脚本作成の段階から、何回もロケハンをして、僕が好きな日本の要素をたくさん入れ込みましたが、文化の交流という意味でも実に上手くいったと思います。また、3作のなかでは一番予算を投じたことも確かです」。
まずは、足利市に渋谷スクランブル交差点を再現した大規模なセットを作ったことに度肝を抜かれる。そして、新宿の歌舞伎町や秋葉原、浜離宮恩賜公園、東京タワーなどの都内だけではなく、名古屋や宇都宮、神戸など全国各地でロケ撮影を行うなかで、チェン監督はある特徴に気づいたという。それは、フィルムコミッションなど日本の製作チームが、ロケ先で周りの人々に対して、入念に気遣いをしていたという姿勢だ。
「とにかく日本のチームは、ロケ地周りにいる一般の方々に僕たち撮影スタッフやキャストが迷惑をかけないように細心の注意を払っていました。タイやニューヨークではそこまではしてなかったですが、彼らがことあるごとに『すみません!』と頭を下げていたことにびっくりしました」。
実は撮影前から、そういった評判を耳にしていたという監督は「同じ中国の映画業界にいる友だちに『今度、東京でロケをするよ』と言ったら驚かれましたし、ハリウッドでさえ、東京でロケすることはハードルが高いと認識されている。確かにニューヨークよりも東京ロケのほうが苦労しました」と告白。