「中国には、ウルトラマンのような知的財産が必要」全世界興収記録を打ち立てた監督が語る、映画産業の課題とは?
「『ウルトラマン』のように長年愛されるコンテンツを作っていきたい」
染谷将太主演の日本と中国の合作映画『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』(18)のチェン・カイコーや『HERO』(03)のチャン・イーモウなど、ビッグバジェットの大作で深い人間ドラマを紡ぎあげられる巨匠はいる。だが『唐人街探偵 東京MISSION』のような思いきり振り切ったアクションコメディで、ここまでの結果を残した中国の映画監督は、チェン・スーチェン監督が初めてだろう。
「商業映画、エンタメ映画としての中国映画は、まだ海外で認知されていないと思いますが、そこもだんだん変わっていくのではないかと。また、興行面で考えても、中国映画全体を盛り上げていくには、こういう映画が必要だと思うんです」と、チェン監督は商業的な目線からも、中国映画の未来を見据えている。
世界の映画マーケットのあり方にも監督はかなり勤勉である。自国の映画産業への課題については「中国の映画産業スタイルは、映画のチケットを売った興行収入だけに頼っている伝統的なやり方です。世界規模のエンタテインメント会社としてディズニーを例に挙げると、毎年の映画での興行収入は会社としての利益の一部で、そのほかを関連グッズなどコンテンツの派生商品、映画ライセンス、ディズニーランドなど施設の売り上げが占めていますから」と語る。
「僕は小さい頃からハリウッド映画に影響されてきました。自分もフィルムメーカーとして、ハリウッドの先進的な撮影方法や、全世界でもっとも成熟している映画チェーンのあり方をもっと勉強して、自分たちの文化をより広げていきたいです」と意欲を見せる。
また、「息子が『ウルトラマン』が大好きで、よくおもちゃで遊んでいますが、『ウルトラマン』もすでに55年の歴史があります。中国映画のコンテンツ事業がより自由競争ができる環境になったいま、もっと大量に自国の知的財産と言えるコンテンツを作ることが必要かと。そういう意味でも、僕と同じ世代の監督たちが頑張って、次世代にバトンを渡すべく、『ウルトラマン』のように長年愛されるコンテンツを作っていけたらうれしいです」と言う。
中国発の娯楽大作として新たな未来を切り開いた『唐人街探偵 東京MISSION』。チェン・スーチェンのように志の高い監督が結果を出せたことで、中国映画業界の未来は明るいと感じた。
取材・文/山崎伸子