アニメと実写の編集過程、驚きの違いとは?『映画大好きポンポさん』平尾隆之監督&今井剛&松尾亮一郎が鼎談で明かす秘話
「僕は最初から、上映時間90分にしたいと思っていました」(平尾)
――本作は、映画制作における“編集”の役割に焦点を当てた作品でもあります。今井さんは、本作のオファーを受けた時には、どのような印象を持たれたのでしょうか。
今井「映画づくりの話だと聞いて、『これはおもしろそうだ』と感じました。でもまさか編集作業について、あそこまで描かれるとは思っていませんでしたね。映画の撮影現場を舞台にした作品は、これまでにも数多く作られていますが、そのなかでも編集作業を描く作品というのは、珍しい。編集作業は、“映えない”ですから(笑)。表現したところでなかなかわかりづらい役割だとも思います。原作にもそれほど多く描かれているわけではないのに、なぜジーンくんの編集作業のシーンを膨らませようと思ったのか。それは僕自身、平尾さんに聞いてみたいことです(笑)」
平尾「あはは!そうなんですね。僕は本作に取り掛かる際、『映画をつくることや、夢を叶えていくためには、いろいろなものを切り捨てなければいけない。でもその切り捨てたものや、自分の選んだ道を肯定するような映画にしたい』と思っていました。また原作を読んで、『もともと長尺の映画も好きだったジーンくんが、なぜあらゆる素材を切って「MEISTER」を90分の映画にしたんだろう』と考えた時に、そこにはポンポさんの“90分”に対する意見や、コルベット監督に言われた“誰かひとりの為に”という助言以外にも、ジーンくんの葛藤、選択、決断があったからなんじゃないかと感じました。つまり、“切ることや選択することを肯定する”というジーンくんの人生と、編集シーンが重なり、これは映画のクライマックスになるんじゃないかと思ったんです」
――ジーンくんの編集シーンは、まさにクライマックスというにふさわしいダイナミックなシーンとなっていました。
平尾「原作ものをアニメ化する意味ってどこにあるのかなと思うと、『アニメーションにした時に、どのようなダイナミズムを生みだせるか。アニメーションにする意味はあるのか?』を考えることって大事なのかなと。わかりやすい例を出すと、僕の友人である荒木くんが監督した『進撃の巨人』。原作の“立体機動装置”の動きを、アニメーションならではの表現でダイナミズムを産みだしていましたよね。とても大きな見どころです。そういったアニメーションにおけるダイナミズムを編集シーンに持ち込んで、 アニメだからこそ描ける、ジーンくんの抱えたドラマをクライマックスにしたいと思ったんです。またジーンくんの作業環境は、今井さんの会社であるLuna-parcの作業部屋の写真を撮らせていただいて、それを参考に作画しているんです」
今井「そうなんですよ。そういった意味でも、あのジーンくんの編集シーンは、僕自身をさらけ出さなければいけなかったので、ちょっと恥ずかしかったですね(笑)。ただ、その恥ずかしさが、変わった瞬間があって。それは『本作は、90分を目掛けて作らなければいけない。もっと切らなければいけない』と思った時。その時は、ジーンくんと同じように『どこを切ればいいんだ!どうすればいいんだ!』とものすごく葛藤していました。恥ずかしがっている場合ではありません(笑)」
――ポンポさんは「映画の長さは90分がいい」ということを持論としているので、やはり本作も“上映時間90分”にこだわる必要があったわけですよね。
松尾「90分の解釈については、いろいろな話し合いをしました。僕は歯切れが悪くなったり、無理にまとめるくらいなら、90分にならなくてもいいのかなと。作品にとって、いい形にすることが一番だと思っていました」
平尾「僕は最初から、90分にしたいと思っていました。やっぱり、ポンポさんが言っていますからね!」
――“上映時間90分”にするうえで、“このカットを残すか、残さないか”と悩まれた場面はありますか?
平尾「病院のシーンは、全カットするという案もありましたね。でもあそこは、どうしても残してほしいとお願いしました」
今井「ポンポさんが、ベッドに横たわるジーンくんに向かって話す場面は、重要なセリフが多かったんですよね。あそこがないと、ポンポさんのヒロイン性が少し失われてしまうので、残すべきなのか、削るべきなのか、いろいろと悩みました」
平尾「ポンポさんのヒロイン感を残したかったということもありますが、やはりあの場面がないと、ジーンくんの覚悟が伝わりづらくなってしまうかなと感じていました」
「今井さんが奇跡を起こした瞬間がありました」(松尾)
――平尾監督と今井さんの間で、かなり多くのやり取りを重ねて、本作は完成したのですね。
平尾「これまで以上に、たくさんのやり取りができたのではないかと思っています。今井さんの言葉って、本当にありがたいものなんです。実は、ポンポさんが『監督になったじゃない』というセリフは、僕が最初にお話した『平尾さんは「GOD EATER」で初めて、監督になったと思う』という今井さんの言葉がもとになっています。また脚本づくりの時に、今井さんは『最初から90分を目指して、90分ぴったりに合わせられる人っているのかな?映画って、なにが正解で、どこまでできたら完成なのかなんて、誰にもわからない。“夢中で作っていたら、90分だった”というのが、ジーンくんの感覚なんじゃないか』とおっしゃっていて。それが、ナタリーが『終わったんですか?』と聞いて、ジーンくんが『わからない』というセリフのヒントになっています。そうやって指針になるようなことを、ポロッと言ってくださるんですよ」
今井「本作が上映時間90分になったのも、ジーンくんと同じような感じでしたよ。どうしよう、どうしようと、いろいろなことをやってみた。でも夢中でやっていたら、終わったんです」
平尾「もう定尺を出さなければいけないという時に、僕らが『いよいよ病院のシーンを切らなければいけないか。ほかにどこか切るところはあるか』と悩んでいる後ろで、今井さんが黙々と作業をしていて。しばらくすると、『あ、2コマ足りない』と今井さんがおっしゃった(笑)。その瞬間、上映時間89分59秒22コマまで到達したんです。これには、本当に驚きました。鳥肌が立ちましたよ!」
松尾「その日は『ここからが勝負だ』と思って、食糧も買い込んでいましたからね(笑)。奇跡が起きた瞬間です」
――今井さんが編集をご担当された、『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』も現在公開中ですが、本作と編集作業が重なった期間もあったのでしょうか…。
今井「並行して、やってはいましたね。でも作品のテイストがまったく違うので、使う脳みそもまったく変わってきます。そういった場合、切り替えはうまくできるものなんです。同じテイストの作品が重なっていたら、つらかったかもしれませんね(苦笑)。どんな作品であれ、常に僕が大切にしているのは、観客の視点。『どのように楽しんで観てもらえるだろうか』ということを、いつも考えています」
平尾「本作ではワイプを多用しましたが、『GO』や『キングダム』など今井さんの編集作品もワイプを使われていることが多いですよね。ワイプにどんな法則があるのか、いろいろと参考にさせていただきました。僕は、今井さんの編集を通ることで、作品がどんどん進化していくことが、とても楽しくて。自分の限界や、作品の限界を突破していく力が、今井さんの編集にはあるんじゃないかと思っています」
――なぜ“ものづくり”をするのかという、原点に立ち返るような作品にもなったのかなと想像します。
松尾「平尾くんが、これまでにあったいろいろなことを切り捨てて、『自分はなにを作るべきなのか』を考え抜いて、いろいろなオファーもあったなかで手に取ったのが、『映画大好きポンポさん』のアニメ化の話でした。平尾くん自ら『こういう映画をつくりたい』と提案しながら、熱い想いをぶつけている姿を見て、僕は『これは唯一無二の作品になるし、きっといいものができる』と確信しました。僕にとっては、『平尾隆之の才能にかけよう』と思った作品なんです」
平尾「『GOD EATER』ではおもしろい物が作れたと思っているんですけど、いろいろな反省点もあって、終わった後『もう僕は、まともな監督作品がつくれないのではないか』と思ったこともありました。でもその時に湧き上がってきたのが、『やはり自分には、つくりたい物語がある』ということ。そんなふうに思っている時に『映画大好きポンポさん』のアニメ化のお話をいただき、これは自分にとって“決意表明”のような作品にもなるのではと思いました。“映画大好き”とタイトルに入っているならば、『自分にとっての“ものづくり”とは、どのようなものなのか』という我々スタッフの想いを込めなければ、この物語は嘘になってしまう。僕にとって、『映画大好きポンポさん』は “仕事としてこなす”ということはできない作品でした。そういった作品に出会えて、本当にうれしく思っています」
今井「僕は技術スタッフですが、日々、仕事をしながら考えていることを作品に込められたように思います。劇中のセリフにもありますが、僕も映画に携わるなかで、『エンドロールが終わるまで席を立たないような作品をつくりたい』と思い、常々そういった姿勢で“ものづくり”に臨んでいます。そういったクリエイターたちの視点、姿勢が入っている映画なので、簡単な言葉にはなりますが、本当に参加できてよかったなと思っています」
平尾「脚本を読んでいただいた時に、今井さんが『“ものづくり”に対してどのような心持ちで向かうべきなのかという、教科書のような作品になるといいね』とおっしゃってくれたことがあって。その言葉もとてもうれしかったです。これからもっともっと、たくさんの人に観ていってもらいたいですね」
取材・文/成田 おり枝