アニメと実写の編集過程、驚きの違いとは?『映画大好きポンポさん』平尾隆之監督&今井剛&松尾亮一郎が鼎談で明かす秘話

インタビュー

アニメと実写の編集過程、驚きの違いとは?『映画大好きポンポさん』平尾隆之監督&今井剛&松尾亮一郎が鼎談で明かす秘話

「Cパートの冒頭に変更があったのは、衝撃でした」(松尾)

――具体的に、今井さんの編集によってグッと変化したと感じるシーンを教えてください。

平尾「『MEISTER』という劇中劇と、フィルム保管庫でジーンくんがペーターゼンさんと会話をしているところで、次々と時間軸が入れ替わるシーンがありますよね。ああいった表現は、絵コンテでは描けません。それは編集上でしか、作ることができない表現なのかなと思います」

今井「平尾監督から『このあたりから、リズムアップさせたい』ということと、『劇中劇とジーンくんの想いが重なり合っていくということを、うまく表現したい』という話があって。だとしたら、ペーターゼンの言葉よりも、ほかのカットを先行して入れることによって、徐々にジーンくんが自分の想いに気づいていく行程を辿っていく…という構成に組み替えました」

ナタリーの修行シーンにも注目!
ナタリーの修行シーンにも注目![c]2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会

平尾「ジーンくんが『これは僕だ』という想いに辿り着く流れは、カットが複雑に絡み合いながらもきれいに整理されていて、うまくいったんじゃないかと思います。またナタリーが女優の修行をしている場面も、今井さんのテンポとリズムによって楽しく観られるようになっていますね。街中のタイムラプスも、編集上でスピードを可変させたりして音楽と映像を合わせています」

【写真を見る】『映画大好きポンポさん』貴重な絵コンテを公開!日本アカデミー賞最優秀編集賞を受賞した今井剛の編集術とは?
【写真を見る】『映画大好きポンポさん』貴重な絵コンテを公開!日本アカデミー賞最優秀編集賞を受賞した今井剛の編集術とは?[c]2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会

松尾「アランとジーンが出会うCパートの冒頭に変更があったのは、衝撃でした。アランくんが銅像の前に座っている直前、ジュネーブの風景が映るんですが、そのカットは絵コンテにはない新作カット。アランくんの登場を、自然なものにするために必要なことだと理解はしているのですが、制作終盤での新作作画、新作背景カットの追加は現場にも負担を強いてしまうので、必要だとは思いつつ…(苦笑)」

今井「もう映画の尺を決めなければいけないというタイミングで、アイデアを提示させていただいたので、制作周りの方たちには、かなりドキッとさせてしまったかもしれません(笑)」

平尾「絵コンテでは、ポンポさんが『この映画、間違いなくニャカデミー賞取っちゃうぜ』と言って、ジーンくんが『ハハハッ』と答えた後、すぐに、アランくんと上司がジュネーブの街を歩いている俯瞰のカットになっていました。今井さんから『それだと急に視点が変わりすぎて、お客さんの感情のラインが途切れてしまうかも』というご提案をいただき、ジュネーブの背景のカットを1枚入れることにしました。また、ジーンくんとアランくんの再会シーンは、絵コンテだともっと後だったんです。それを前に持ってきたんですよね」

回想扱いとなった場面
回想扱いとなった場面[c]2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会

今井「アランくんと上司がジュネーブの街を歩いているシーンでは、上司がアランくんに向かって、結構心に刺さることを言うんですが、『お客さんがその言葉を受け止めきれないまま、物語が進んでしまうのではないか』という恐れがありました。そのため、そのシーンをごっそり“2時間前の出来事”という回想扱いにしました。先にジーンくんたち撮影隊と、アランくんの出会いを見せておくことで、観客は『撮影隊がこの街にいて、いままでの話と接点があるんだな』と気づいてくれる。感情の流れが途切れることなく、アランくんを登場させることができるかなと思いました」

平尾「僕も絵コンテ撮(絵コンテをつなげたムービー)を見た時に、なんだかアランくんの登場がスムーズにいっていないような気がして。ポンポさんとジーンくんのやり取りを楽しく見ていたお客さんが、アランくんを見て『なんだ、この突然出てきたキャラクターは。感情移入できないぞ』と思ってしまうかもしれないと感じました。それで今井さんに相談させていただきました」

今井「先ほど、僕が平尾さんについて『「GOD EATER」で初めて監督になったと感じた』という話がありましたが、まさにこういったことなんですよね。近年の平尾さんは、客観的に自分の作品を判断できるようになった。よりワイドな視野で、作品を見られるようになってきていると思います」

「ドキュメンタリーとアニメーションを経験できたことが、成長につながった」(今井)

劇中劇『MEISTER』とジーンとが重なっていく展開も熱い!
劇中劇『MEISTER』とジーンとが重なっていく展開も熱い![c]2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会

――今井さんは、行定勲監督や大友啓史監督、李相日監督をはじめ錚々たる監督陣とタッグを組み、実写でも数々の話題作で編集を担当されてきています。編集の技を磨くうえで、どのような経験が大切だったと思われますか。

今井「僕は映画学校の出身なんですが、卒業制作でドキュメンタリーを作ったことが、とても勉強になりました。ドキュメンタリーって、物語のための絵があるわけではないですよね。つまり『どこをどう繋げたらいいのか』ということをかなりシビアに考えないと、観る人になにかを伝えることができないものなんです。その視点を学べたことは、僕にとって大きな経験でした。また就職をした後、アニメーションの編集をやり始めた時は、ひとコマを切ることの大切さを知りました。いわば、ミクロの世界ですよね。ワイドな視点をドキュメンタリーで学び、細かい積み重ねで見え方が変わってくることを、アニメーションで経験した。この2つの世界を知ることができたのが、自分の成長につながったと思っています」

――実写とはまた違った、アニメの編集のおもしろさとは、どのようなものでしょうか。

今井「実写だと、まず演じた人がいて、『その膨大な素材をどうするか』というのが、編集の仕事です。一方アニメーションは、編集によって、キャラクターの感情表現が変わってくることもあります。例えば『…』という間合いも、編集で作ることができます」

平尾「キャラクターの感情を、編集でコントロールできるということですよね。今井さんはいろいろな経験をされているので、ご一緒すると勉強になることばかり。編集がフィルムからデジタルに切り替わって行く際、今井さんは日本語マニュアルのない時代からノンリニア編集(デジタル映像編集)に携わっている。日本におけるアビッド(ノンリニア編集システム)の普及にも一役買っているんですよ」

●「『映画大好きポンポさん』をフィルム上映したい!」プロジェクトページ
https://www.makuake.com/project/pompo-the-cinephile/
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