巨匠・富野由悠季の創作力とは?スタッフ対談で明かす、『G-レコ』&『閃光のハサウェイ』制作秘話
『機動戦士ガンダム』の原作者である富野由悠季が総監督、脚本を務めたテレビアニメ『ガンダム Gのレコンギスタ』を再編集、新規カットを追加し、全5部作で展開予定の第3部、劇場版『Gのレコンギスタ III』「宇宙からの遺産」が現在公開中。さらに、映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』が興行収入20億円突破の大ヒットを記録するなど、この夏の映画館は『機動戦士ガンダム』から生まれた2作品が大きな話題に。
そこで今回、この2作品に携わるサンライズのプロデューサー、小形尚弘と旭プロダクションに所属する撮影監督の脇顕太朗のスペシャル対談を実施。アニメーションの仕上がりを左右するパートである「撮影」について、それぞれ違った立場で両作に携わる富野監督のこだわりや作品の魅力を聞いた。
「撮影によって、映像の完成度が全然変わってきます」(小形)
――脇さんが所属する旭プロダクションは、「ガンダム」作品の撮影をずっと担当されていますね。
小形尚弘(以下、小形)「サンライズ作品は、それこそ最初の『機動戦士ガンダム』の頃からお願いしてきました。途中で別の会社にお願いしていた時期もありましたが、現在の『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(以下、『閃光のハサウェイ』)や『Gのレコンギスタ』(以下、『G-レコ』)に繋がる流れは、『機動戦士ガンダムSEED』から始まった形です。その頃に、撮影がちょうどアナログからデジタルに切り替わって、それまでとは果たす役割が変わってきました。撮影として表現できる幅が拡がって、単なる合成ではない映像処理が入ってくるようになり、ちょうど時代の先駆け的なところがあった。そのタイミングで旭プロさんと組むと新しい試みができると感じ、『機動戦士ガンダムUC』でもお願いして、いまに至る流れです。僕はアナログ作業の最後の頃を体験しているんですが、脇さんは完全にデジタルからですよね?」
脇顕太朗(以下、脇)「はい。僕が仕事を始めた時には、デジタルに移行していました」
――アニメーションの「撮影」は、どんな仕事をされるのでしょうか?
脇「昔は、背景の上にセル画を載せて、文字通りカメラで1枚ずつ撮るという形でしたが、現在はそれをデジタルで行っている感じです。背景美術データの上に作画を重ねて、そこにデジタル効果を乗せて書き出し(レンダリング)を行い 、1本のムービーにして納品するという流れになっています。アナログ時代の名残で撮影という名前が残っていますが、レイヤーとして重ねるという概念はセル画の時と変わらないですね。その作業がデジタルに置き換わり、アナログではやりづらかったことがやりやすくなった部分もありますね」
小形「ここ5年くらいは、撮影というセクションが作品に与える影響が大きいです。映像の仕上がりに関して担う部分がかなり増していて、撮影によって、映像の完成度が全然変わってきますからね」
「監督ごとに趣味嗜好が違っていて、その色が最終的に画面に残ります」(脇)
――撮影によって、映像の仕上がりが大きく左右されるわけですが、どのように重要度が増しているのでしょうか?
小形「最終的に皆さんが観る映像は撮影処理が入ったものなので、それをどういう画面にするのかという意思統一が重要になってきます。本来だったら撮影処理を逆算して、作画さんの影付けや演出指示を入れるようにやっていきます。それがなかなかできない。その結果、脇さんたちが携わる撮影の工程での負担が大きくなりますよね」
脇「監督ごとに趣味嗜好が違っていて、その色が最終的に画面に残りますからね。僕の場合、ほかではあまりやっていないやり方を試したいという部分が多いので、『ここは、こんな感じにしたらおもしろいかもしれません』という提案をわりとしてしまいます。そうしたチャレンジの結果、最終的に新しい映像になっていればいいなと思っています」
小形「いろいろチャレンジしてもらえるからこそ、脇さんにお願いしている部分もあります。現場では、監督の頭のなかにあるルックや作画と、デザインに関わる人たちや制作サイドのイメージ、脇さんが考えている完成形、それらを合わせる作業があるのですが、必ずそこで揉めますね(笑)。基本は監督の思っている方向に制作は合わせていくのですが、実際に絵を描く人たちは線の強弱レベルで好みが出てくる。さらに、脇さんからも『今回はこういう画面にしたい』という提案があって、そこを足したり引いたりしながら画面を作っていくことになるので、最初の話し合いが重要になってきます」
脇「こういった話をしている時が、自分は一番楽しいです。各々が考えている作品像の本音を聞くことができるので」