骨太サスペンスの名手、テイラー・シェリダン…『ボーダーライン』から『モンタナの目撃者』へ続くその手腕に迫る!
9月3日(金)公開の『モンタナの目撃者』はアンジェリーナ・ジョリーが11年ぶりにアクション映画のジャンルに回帰した話題作だ。しかし今回、ジョリーが演じるのは『トゥームレイダー』(01)のトレジャーハンター、『Mr.&Mrs.スミス』(05)の暗殺者、『ソルト』(10)のCIA分析官のように、超人的な身体能力を持つスーパー・ヒロインではない。米国モンタナ州の大自然のまっただなかに身を置く主人公ハンナは、心に大きなトラウマを抱える森林消防隊員。脚本を読んで、たちまちハンナのキャラクターに魅了されたジョリーは、その脚本を執筆した監督にも引きつけられた。知る人ぞ知る骨太なサスペンス・アクションの名手、テイラー・シェリダンである。
『ボーダーライン』『最後の追跡』の脚本を手掛け、『ウインド・リバー』では監督としての手腕も発揮
元俳優らしい端整な顔立ちのシェリダンが最初に注目を集めたのは、オリジナル脚本を提供した『ボーダーライン』(15)だった。のちに『メッセージ』(16)、『ブレードランナー 2049』(17)を世に送りだすドゥニ・ヴィルヌーヴが監督を務めたこの映画は、アメリカの麻薬戦争を題材にしたクライム・アクション。主人公であるFBI女性捜査官の視点を通して、メキシコとの国境地帯のおぞましい現実をえぐり出した衝撃的な映像世界は大反響を呼び、2018年には再びシェリダンが脚本を手掛けた続編『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』が製作された。
『ボーダーライン』に続く、デヴィッド・マッケンジー監督によるNetflixオリジナル映画『最後の追跡』(16)は、脚本家としてのシェリダンの名声を決定づける作品となった。テキサス州の田舎町の銀行を襲撃する若き兄弟と、それを追う年老いたテキサスレンジャーの人生が交錯していく西部劇風の犯罪ドラマ。スリルと哀感が入り混じり、深い余韻を残すこの映画は全米賞レースに参戦し、アカデミー賞ではシェリダンが脚本賞候補に名を連ねたほか、作品賞など全4部門にノミネートされた。
そしてシェリダンは『ウインド・リバー』(17)で監督としても類いまれな手腕を発揮した。孤高のハンターとFBI女性捜査官のコンビが、ワイオミング州の先住民保留地で起こった殺人事件の真相究明に挑むクライム・ミステリー。真冬の険しい山岳地帯の絶景が鮮烈なインパクトを放つこの映画は、ネイティブ・アメリカンの人々を取り巻く深刻な問題を観る者に突きつける作品でもあった。
アメリカにおける辺境の地を舞台にした“フロンティア3部作”
『ボーダーライン』『最後の追跡』『ウインド・リバー』の共通点は、いずれも現代のアメリカにおける辺境の地を舞台にしていることだ。時代の流れに取り残されて孤立し、荒廃した土地の知られざる実態に光を当てたこの3作品は“フロンティア3部作”とも呼ばれている。とはいえシェリダンは、説教くさいガチガチの社会派監督ではない。脚本家らしくストーリーとキャラクターをなにより重んじながら、切れ味鋭いサスペンス&アクション演出に腕を振るい、手に汗握る映画的な興奮を創出する術にも長けたフィルムメイカーなのだ。