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『うみべの女の子』原作者・浅野いにおとウエダアツシ監督が対談「同世代だからこそできた映画」

インタビュー

『うみべの女の子』原作者・浅野いにおとウエダアツシ監督が対談「同世代だからこそできた映画」

「オーディションの全過程を見られて、本当に良かったです」(浅野)

同世代ならではのコラボレーションを楽しんだと言う
同世代ならではのコラボレーションを楽しんだと言う撮影/黒羽政士

――浅野さんは主演の石川さんや青木さんらキャストのオーディションにも立ちあわれたそうですね。

ウエダ「浅野さんの漫画はキャラクターにたくさんのファンがいるので、そこは浅野さんにも見て決めていただきたいなと思いました」

浅野「オーディションの全過程を見られて、本当に良かったです。磯辺は微妙なニュアンスも含め、いい子に振る舞っている部分もあるけど、不道徳な部分もあり、そこを含めてやれる人がいいなと思っていたのですが、青木さんを見て、彼に決まれば問題なしだと確信しました。ただ、小梅役は難航していて、ようやく終盤で石川さんが来てくれたことで、『この子しかいない』と思えたんです」

小梅が憧れる三崎先輩(倉悠貴)
小梅が憧れる三崎先輩(倉悠貴)[c]2021『うみべの女の子』製作委員会

ウエダ「石川さんは、オーディションの日に学生服を着てきたんですが、ちょうどエレベーターで一緒になったんですよね」

浅野「その時、中学生がこんなビルになんの用だろう?と思っていたんですが、あとで石川さんだとわかりました(笑)。 本当に中学生に見えたんです」

――石川さんや青木さんは、実年齢は20代ですが、10代の揺れ動く心のあやを見事に体現していました。

ウエダ 「共通認識として、原作の世界観を具現化したいということはあったけど、2人を見てそこは理解できているなと感じたので、僕のほうからはあまり細かいことは言ってないです」

――2人は何度もいろんな場所で逢瀬を重ねていきますが、濡れ場のシーンについては、どんなことを心掛けて演出されたのですか?

ウエダ「原作の内容を知ったうえでのオーディションだったし、彼らも覚悟して出演を受けてくれたはずです。とはいえ、僕たちスタッフも緊張します。何回もテークを重ねられるようなシーンではないので、撮影の何日も前からいろいろな話をしました。

やがてすれ違っていく2人の話でもあるから、一体いつが小梅と磯辺が相思相愛の状態だったのかという感情の制御も含め、セックスもそれぞれの段階に合った感情のものでないといけないということを話し合いました」

――実際に撮ってみて、いかがでしたか?


小梅と磯辺が逢瀬を重ねていく
小梅と磯辺が逢瀬を重ねていく[c]2021『うみべの女の子』製作委員会

ウエダ「2人とも撮影中にどんどん良くなっていったし、漫画よりもキャラクターが肉付けされていってるなと思いながら、撮っていました」

浅野「僕も2人が演じることで、原作のキャラクターの性格や存在感が上書きされ、小梅や磯辺がより人間らしく立っている感じを受けて、すごく新鮮でした。 性描写のシーンはほとんど僕はノータッチだったので、最初に試写を観始めた時は『めちゃくちゃセックスしてる!』と思いました(笑)」

ウエダ「試写後に浅野さんからひと言、『これは子どもに見せられないですね』と言われて。でもそれ、浅野さんが描いたんですから(笑)」

浅野「もちろんトータルで言えば、すごくいい映画になっていたとは思いましたよ(笑)」

――浅野さんは、ほかにも実写映画化されてみての発見などはありましたか?

浅野「磯辺のキャラクターは、僕の記憶よりも攻撃的かつ過激になっていた気がしたので、試写を観終わったあとで、自分の原作を読み返してみたけど、確かに台詞はそのままなんです。だから、青木さんの解釈が乗っかっていたのかと気づき、そこもすごく新鮮でした。ほかにも原作では磯辺家の複雑な家庭事情を具体的に描いてなかったけど、磯辺の父親(村上淳)のシーンが追加されていたことで、彼がなぜそういう人間になったのか、と改めてわかった感じがしました」

「僕は映画を撮る時、いつも19歳の自分がおもしろがれる映画を作りたいと思っています」(ウエダ)

桂子は、人知れず鹿島(前田旺志郎)に思いを寄せていた。
桂子は、人知れず鹿島(前田旺志郎)に思いを寄せていた。[c]2021『うみべの女の子』製作委員会

――本作で描かれているのは中学生同士の恋愛なのに、好きな相手に手が届かない切なさや、届いたつもりでもすれ違っていくというやるせなさが、大人の心にも刺さる気がしました。また、小梅と磯辺のどちらにも感情移入できた点が秀逸でしたが。

ウエダ「プロデューサー陣と話し合いのなかでも、小梅を主人公として漫画を読んだ人と、磯辺のほうに共感して読んだ人がいたんです。映画化する時に、それをそのまま引き継ぎたいと思って。観る人によって、どちらの感情にも寄りそえるものを作りたいと思いました」

浅野「僕が原作を描いている時も、主人公っぽいのは小梅ですが、全体のウエイトとして、小梅と磯辺のバランスには気をつけました。すごくわかりやすく言えば、性描写でも、男性読者だけに向けたものだとしたら、ずっと小梅の姿だけを描くことになると思いますが、そういう漫画ではないから、磯辺をアップにした画も入れて、あくまでも均等に扱うようにしました。

結局、恋愛というのは、絶対に強弱のパワーバランスが生まれるものですが、それはその都度、変わることもあるでしょうし。きっと誰もがそういう経験をしたことがあると思うので、どちらのキャラクターにも共感してもらえるんじゃないかと思います」

『うみべの女の子』は公開中
『うみべの女の子』は公開中[c]2021『うみべの女の子』製作委員会

――共感できる内容もそうですが、浅野先生はなぜ鬱屈した10代の心情をここまでリアルに描けるのでしょうか?

浅野「40代になったので、いろいろな予防線を張って説明することもできますが、シンプルに言うと、極力正直になることだと思います。当時の自分を振り返り、過去のことをきれいごととして美化するのではなく、正直に思い出すということかもしれない。例えば『うみべの女の子』で言えば、若いから歯止めが効かずに、攻撃的になっていますが、なるべくそこもそのまま描く。そうすれば、自ずと不器用な10代のころの物語になるのではないですかね。

とはいえ『うみべの女の子』は僕が30歳ぐらいの時に描いた漫画で、当時の中学生のリアルなんてもちろんわかっていないわけです。でも原作は、10年間ずっと重版はかかってきたので、まったくイコールではないにしろ、いまの若い層で、引っかかってくれる人たちも必ずいるとは思っています」

ウエダ 「漫画は確かに10年前に発売された作品ですが、だからといって実写映画を、10年前の映画にはしちゃいけないとは思いました。2021年公開の映画にするために、原作ではブログや掲示板だったものを、今のSNSに変更したし、若い子たちのしゃべり言葉や仕草なども変えました。でも、そこを僕が書いたところで、僕自身が知っている知識自体が古いと思うので、より原作の主人公に年が近い石川さんたちに自由に演じてもらい、彼らの力を使っていま現在の映画にできればいいなと思いました」

浅野「実際にそうなったと思います。売れ線というか、無難な映画ではないけど、僕自身は若いころ、そういう作品に影響を受けてきた部分もあると思いますし。年々映画を観る本数は減ってきていますが、今回本作を観て、自分に向けられて作られた映画なんだなと感じられて、そこもすごくうれしかったです」

実写映画『うみべの女の子』の魅力について語った2人
実写映画『うみべの女の子』の魅力について語った2人撮影/黒羽政士

ウエダ「その話を受けてですが、僕は映画を撮る時、いつも19歳の自分がおもしろがれる映画を作りたいと思っています。それは僕がちょうど19歳で映画を撮りたいと思い、 大学の映研に入って撮り始めたから。『うみべの女の子』を読んだ時、その辺の感性にすごく響く漫画だと思ったので、映画も若い方に観ていただきたくて、レーティングを下げました。中学生は無理にしても、高校生にはぜひ観てもらいたいし、どういう反応をしてもらえるのかも楽しみです。

また、恋愛って学校で習うものではないし、中学生の恋愛も大人の恋愛も本質はあまり変わらないと思うので、きっとどの世代でも身近な話として受け止めてもらえるのではないかと思います。40歳を超えた自分が観ても、そう思えるような映画になったので、ぜひ夏の思い出として、多くの方に観ていただきたいです」

取材・文/山崎伸子

※宮崎あおいの「崎」は正式には「たつさき」

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