『オールド』が映しだす“ピントのぼやけた未来”…恐怖と感動が押し寄せる、かつてない映画体験
コロナ禍を生きる我々にこそ刺さる、“密室的設定”と“特殊な時間の経過”
本作の仕掛けでもっともユニークなのは、崖に囲まれたビーチから出られない“密室的設定”と、その場で起きる“特殊な時間の経過”だ。これらは原作となったグラフィック・ノベル「Sand Castle」とまったく同じだが、それがコロナ禍にある私たちにグサッと突き刺さる。全世界の人が、人との接触と外出を極度に控えるという、これまで体験したことがない環境を共有しているこの1年半超、誰もがいやがおうにも自身と家族について、生活や仕事について、などと向き合い、希望と絶望がないまぜになったまま、ピントのぼやけた未来を考えている。これが、本作の登場人物たちの体験する一生分の1日と、見事にだぶって感じられるのだ。
偶然とはいえいま、この作品を見知らぬ人たちとスクリーンで共有していることに驚き、ちょいちょいと現実に引き戻される瞬間がある。この映画体験こそ本作独自のものだ。ちなみに本作はコロナ禍で撮影された作品であることが報じられているが、それを知らないで観たとしても、エンドロールのスタッフクレジットを見ていて気付く人もいるかもしれない(covid compliance teamという肩書きが出てくる)。
観客を映画の世界へと引きずり込む、シャマラン監督からのメッセージ
なお、(冒頭でも軽く触れたが)本編の前にはシャマラン監督本人によるビデオメッセージが上映されている。そこで彼は、スリラー映画一徹でやってきたこと、そしてコロナ禍のなかにある私たちに対して劇場での映画体験の楽しさ、すばらしさを語っている。
ほんの数分のメッセージだが、この状況下で劇場に足を運び、同じスクリーンを観ている私たちに、なにかしら同じ感情が芽生えたのを感じるだろう。そして、そんな監督のメッセージも手伝い、すぐに映画の世界へと引きずり込まれ、大スクリーンに展開する日常とはまったく異質なシャマラン・ワールドに没入できる。もちろん、ビデオメッセージは劇場だけの特典なので、ソフト化、配信を待つのではなく、公開中にぜひ体験してもらいたい。
文/よしひろまさみち