『オールド』が映しだす“ピントのぼやけた未来”…恐怖と感動が押し寄せる、かつてない映画体験
“生から死へ”…残酷なまでにハッキリと描かれる、人生観の変容
生物のみ1日で約50年分も成長してしまうというビーチの時間経過、それにともなう有形無形のユニークな仕掛け、状況に翻弄される閉じ込められた人々、遠く崖の上に見える人工的な光…。そのどれをとってもシャマラン作品らしい魅力があるが、特に興味深いのがこれまでの監督作でも主軸となってきた親子の描き方だ。
なかでも主人公キャパ家の子どもたちがビーチで過ごす1日は、改めて考えると強烈。6歳の息子トレントと11歳の娘マドックスは、あっという間に歳を重ね、心の成長が追いつかない身体的変化を経験するばかりか、両親が秘密にしてきた離婚危機とその原因や母プリスカの病気を知り、夜には視力や聴力に問題が起きている年老いた両親を目の当たりにする。
日のあるうちに彼らは、心を病んだ外科医チャールズの暴力や、その娘カーラの出産など、一つの経験でもトラウマ級な出来事を目の当たりにするうえ、両親の看取りまで経験する。すなわち、ビーチに行くまでは「生を謳歌することが前提」としていた人生だったのが、ビーチに囚われてからは「死を前提に生かされている」人生観に変わっていく。戦争映画でもここまでハッキリと死にゆく人生観が打ちだされた作品は少なく、これほど残酷なことはない。だが、この人生観の変容もまた、いまの私たちがいるこの時代、世界中で共有されていることに気付かされるはずだ。
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コロナ禍で撮影されたからこそ成立した、これまでにない映画体験
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