オダギリジョーと池松壮亮が対談「世界はもっと不確かで、いろんな考えが存在する」
「ものすごく表現に対して愛情がある方で、恐らく日本の俳優でトップだと思います」(池松)
──初共演は8年前、三谷幸喜監督、脚本のWOWOWドラマ「大空港2013」。今年公開の映画『アジアの天使』で初めて本格的に共演され、撮影期間は日本人スタッフで毎夜集まり、濃密な時間を過ごされたと聞きました。今回は“監督と俳優”というこれまでと異なる立場でご一緒されてみて、オダギリさんの監督としての魅力をどう感じられましたか?
池松「オダギリさんは俳優でも監督でも、表現を突き詰めている方です。今回俳優の時ではなく監督をされている姿を間近に見て、オダギリさんの“ある深み”を感じられました。ものすごく表現に対して愛情がある方で、恐らく日本の俳優でトップだと思います。やってきたことの内実があまりにも違う。これだけものづくりに対して丁寧な方というのは、なかなか出会えないと感じます。そんなことはオダギリさん自身は自分から伝えようとされないと思いますけど、今回改めてそう思いました。誰かがオダギリさんを真似しようとしても、うまくいかないと思います。監督をされている時のほうが色んなエッセンスを強く感じました」
オダギリ「そんな言葉をいただいて恐縮です。でも、今回の場合は表現に対して一段と丁寧に接していたと思います。この前に、『ある船頭の話』という映画を作って、次も映画を作るんだろうと思っていました。ですが、不思議な流れでテレビドラマを作る機会をいただけて、せっかく作るなら自分らしいこだわったものにしたいですし、自分だからこそ作れるものをしっかり残したい。俳優と監督では、まるで人格が違うんですよね。監督の時は、みんなにすごく気を遣って、丁寧に接していると自分でもわかります。俳優の時はわがままに暴れまわってますけど(笑)」
池松「そんなことないですよ(笑)」
オダギリ「いや、やっぱり監督の時は、自分の書いた拙い脚本を形にしてくれようと、たくさんの方が集まって、力を貸してくれるじゃないですか。それがすごく尊いものに感じますし、チームに対してリスペクトの気持ちが高まるんです。俳優の時は逆に、チームの一員だから、そこまで自分ごとにできないんでしょうね(笑)」
──オダギリさんにとって、丁寧さを突き詰めるとは具体的にどのようなことなんですか?
オダギリ「脚本を書く段階から現場でも、編集でも、最後までできるだけ妥協をしない、ということだと思います。ドラマの場合は、映画と違ってコンプライアンスが多いんですよね。そこに苦しみましたけど、逆手にとってどうおもしろくできるか、と心得てものづくりできたことは僕にとっていい経験になりました」
「池松くんは芝居におけるバランスを、ミリ単位で調整できる」(オダギリ)
──オダギリさんから見て、池松さんの俳優としての魅力はどの部分だと感じていらっしゃいますか?
オダギリ「作品に対して誠実に向き合っているところは尊敬します。池松くんの誠実さを横で見ていて、背筋が伸びる感覚に何度もなりました。最近の現場ではなかなか感じることのない雰囲気ですよ。あとは、バランス感覚がとてもいいと思います。俳優には必ず必要な能力で、ちょっとでもずれてしまうと作品を壊してしまうんですよね。池松くんは芝居におけるバランスを、ミリ単位で調整できる。なので、俳優同士で向かい合った時にいろんなことを試せますし、監督と俳優で対峙した時もミリ単位のニュアンスをお願いすることができます。今回も、池松くんに対してダメ出しはほぼなかったと思います。『もう少し、こうしてください』もなかった。それくらいきちんと台本を読み込み、細かいところまで理解して、現場では絶妙なバランスで演じてくれる俳優だと思います」
池松「それは、合う合わないもあるんだと思います。合わない時は本当に合いませんし、言葉にすると難しいのですが、本当に良い俳優さんと対峙するときはどこまでも飛べます。オダギリさんと向かい合う時はどこまで飛ぶかをこちらが設定できます。一平も、前回の兄弟役でも、どちらかと言えば僕は“受ける”側。お互いにはみ出したりおさまったり、そのどこまでいっても取れるバランスをリードしてくれたのはオダギリさんで。そのことがオダギリさんとの共演で得た一番の喜びかもしれません。思いっきりリードを引っ張ってくれるオダギリさんに対して僕が必死にバランスをとる。それが兄弟としても今回のオリバーと一平との共通する点かもしれません。たまにそれを入れ替えてみたり」
──麻生久美子さんや柄本明さんなど、気持ちよくはみ出してしまう人とのシーンは、受け止めるのが大変だろうと思いながら、思いきり笑ってしまいました。「押忍」のシーンなんて、大好きでした。
池松「笑いましたね(笑)。全てオダギリさんにしかできないセンスの範疇だと思います」
──この数年で幾度もタッグを組まれたことで、お互いを深くご理解されたのではないかと想像します。互いをひと言で表現するとしたら、どんな言葉が思い浮かぶでしょうか?
(2人とも黙り込んで考える)
オダギリ「ひと言でまとめるなら“絶滅危惧種”ですね。ほかでもいろんなところで話しているんですけど、池松くんは現場にスマホも台本も持ち込まないんですよ。作品に対する挑み方や姿勢が、ほかの若手とはまったく違っていて、上の世代の俳優たちが池松くんのような若者を見たらそりゃあ大切にしたくなりますよ」
池松「そうですね…こんなにもひと言が難しい方は、なかなかいないんじゃないですかね。あまりにも両極端で、一つの事柄に対していろんな方向から突き詰めることができる方だと思います。誰よりもカオスな感覚と澄んだ湖を持ち合わせているような、そんなイメージです。僕はここ2年くらい、撮影したり取材したりものすごくオダギリさんと会っているんですよ(笑)。 “俳優”という側面だと、この国の映画史、俳優史を実は一番感じる人です。僕の勝手な憶測ですが、たくさんの情報や映画への考えに触れてこられたと思います。それに対するカウンターも含めて、自分独自の新しいことをしながら日本映画の歴史を引き継いでいる。全然ひと言になりませんね(笑)とにかく、こういう方が年上にいることは、僕にとって物凄くありがたいことだと日々感じています」
取材・文/羽佐田瑶子
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