「えらいものを観た」劔樹人&犬山紙子夫妻が『空白』を通して考えた“子育て”とマスコミ報道のあり方
「“マスゴミ”という言い方は好きではありません」(犬山)
ーー娘の事故をめぐって、マスコミが添田と青柳を追いかけたり、ネット上で彼らを叩く人が出てきたりする描写もありました。犬山さんは情報番組のコメンテーターも務められていますが、本作を通してマスコミ報道のあり方について感じたことがあれば教えてください。
犬山「事故のニュースを伝えている情報番組で、ワイプのなかで神妙な顔つきをしている男性と女性がいましたよね。あのワイプの2人には、かなり感情移入しました。私は報道すること自体はとても大切なことだと思っていますし、マスコミといってもいろいろな番組があって、それぞれスタンスも伝え方も変わってきます。ひとくくりに“マスコミ=悪”だとか、“マスゴミ”という言い方をするのは、私は好きではありません。ただ私自身、コメンテーターの席に座りながら、加害者がどんな趣味を持っていたのかなど、その周囲の人に話を聞きに行ったりしているのを見ると『これって、必要なのかな』と思うことは正直かなりあって。被害に遭われた方のプライバシーを守るという観点からしても、マスコミはまだ過渡期にあるなと感じています」
ーー犬山さんは、意見を発信するうえでどのようなことを大切にされていますか。
犬山「感情的になって『これはひどいですね、これはダメですね』で終わらせるのではなく、なにか次につなげられるような発信の仕方をしたいなといつも思っています。例えば轢き逃げ事故のニュースがあったとしたら、『轢き逃げ事故に対して、こういったアクションを起こしている人たちがいます』という情報を伝えることもできますよね。メディアの役割っていかに視聴率を取るかではなく、同じような事件や事故が起こらないようにするためにはどうしたらいいのか、どうやって社会をよりよい方向に整えていくのかという、教訓としての役割を担うことがとても大事だと思っています」
ーーインターネット上で不確かな情報やネガティブな意見が拡散される様子も、とてもリアルに感じました。
劔「劇中で言うならば『スーパーの店長がしつこく追いかけたせいで事故が起きたんだ』といった意見が上がるのは、正義が行き過ぎてしまっているからだと思うんです。世のなかの人たちは、きっと正義の気持ちで、青柳を叩いている。一方では『少女が万引きをしたんだから、追いかけるのは当然だ』という意見もある。どちらも、自分にとっては正義だと思っているんですよね」
犬山「誰が悪者で、誰が正義で…とはっきりしていないのが、本当の世の中。『自分の感情や不安を落ち着かせるために、誰かを悪者に仕立て上げていないだろうか』と自問してみることが必要かなと思っています」
ーーお2人はいろいろなことを話し合われながら、家庭生活を送られているんだなと感じました。最後に「これが夫婦円満の秘訣かな」と思うことがあれば、教えてください。
犬山「あはは!教えられるほど偉い人間ではありません!」
劔「細かい小競り合いはいっぱいしています(笑)!」
犬山「私たちも失敗を繰り返してきたので決して上から言える立場ではありませんが、失敗から学んだことといえば『自分がいいヤツになるのが一番だな』と感じていて。私はどちらかというと添田のような性質で…」
劔「若いころは、ハリネズミでした(笑)」
犬山「そう!怒りの感情をずっと持っているタイプでした。でも自分と向き合って、自分がいいヤツにならないと彼と穏やかな日常を送れないなと思ったんです。だって、家に帰ってきてハリネズミがいたら嫌ですよね。そういったことに気づいて、修正していく努力をすることが大事。あとは夫婦はチームで、お互いに味方同士なんだと何度も確認し合う!」
劔「そういった姿を子どもにも見せていけるといいよね。あと、どうしても一緒にいる時間が長くなると、相手の考えることがわかるようになってくるじゃないですか。『言わなくても、わかってくれるはず』と思い込んでしまったりもする。そういった甘えを持たずに、きちんと説明をしたり、話を聞いたりすることが大事かなと思っています」
取材・文/成田おり枝
※吉田恵輔の「吉」は“つちよし”が正式表記