【今週の☆☆☆】古田新太が暴走するパワフルなヒューマンドラマ『空白』、逃げて逃げまくる『殺人鬼から逃げる夜』など、週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、週末に観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画。今週は、娘を奪われてモンスター化する父親と、責められ続ける青年を軸に描かれる衝撃のドラマ、日本初の女性総理とその夫を描く話題作、殺人鬼のターゲットにされた聴覚が不自由な女性の逃走を描く“サイレント”スリラーの、長い余韻と興奮が味わえる3本!
人間の痛みと葛藤を透徹した眼差しで見つめた、パワフルなヒューマンドラマ…『空白』(公開中)
『BLUE/ブルー』の吉田恵輔監督が、自ら手がけたオリジナル脚本で描く問題作。万引きの容疑で逃走中に事故死した娘の父親で、現実を認められず、言動が暴走していく添田役に古田新太。添田と世間からの責め苦に押しつぶされていくスーパーの店長・青柳役に松坂桃李。2人が渾身の演技で体現するキャラクター像はあまりにもやるせなく、胸をえぐられる。モンスター化する父親の狂気を描くサイコサスペンスなのかと思いきや、実は登場するすべての人間の痛みと葛藤を透徹した眼差しで見つめた、パワフルなヒューマンドラマ。添田と青柳はもちろん、添田の元妻、スーパーの店員、若い漁師、娘の担任教師にいたるまで、みんな不完全ではあっても、どこか共感を寄せずにはいられない人物として描いているところに、吉田監督らしい人間への愛が感じられる。そんな個々の人物に対する優しさとは対照的に、世の“不寛容”を増長させるメディアやネット、SNSの描写は徹底してシビアなのも印象的だ。ラストシーンの余韻を全身で受け止めながら、観た人それぞれが願う世界へと思いを馳せてほしい。(映画ライター・石塚圭子)
政治音痴のピュアな鳥類学者が、愛する妻を応援しようと右往左往…『総理の夫』(公開中)
まさにタイムリーな映画!42歳という史上最年少にして、日本初の女性総理が誕生! 原田マハの小説「総理の夫 First Gentleman」の映画化だが、ユニークなのは、初のファースト・ジェントルマン、“総理の夫”が主人公という点だ。政治音痴のピュアな鳥類学者が、愛する妻を応援しようと右往左往し、予想外の騒動に巻き込まれながら奮闘する姿が、なんとも愛らしく楽しい。コメディを十八番とする田中圭が“らしさ”満開で好演、一方、妻で新総理を演じる中谷美紀も凛とした美しさで、老若男女を魅了する。
政界における足の引っ張り合いや陰謀や画策など、黒い“あるある”話を盛り込んでチラッと皮肉を効かせながらも、社会派ドラマではなく、完全なるエンタテインメント作品に仕上げた潔さが、邪念を払って素直にドラマを楽しませる。夫婦愛をエッセンスに涙を誘いながら、爽やかな感動を呼ぶ。その実、誰もが“本当にこんな総理が現れればいいのに…”と大熱狂を心に沈め、フッと溜息をつくのが、う~ん、切ない!(ライター・折田千鶴子)
「聞こえない」目撃者が、シリアルキラーから逃げて逃げまくる…『殺人鬼から逃げる夜』(公開中)
世界有数のスリラー映画大国である韓国から、またもやエグい快作がやってきた。主人公は仕事帰りの暗い夜道で、獲物を物色する快楽殺人鬼と遭遇してしまった若い女性ギョンミ。聴覚障がい者である彼女が、自宅にまで侵入してきたシリアルキラーから逃げて逃げまくる一夜の物語だ。ストーリーはこのうえなくシンプルだが、耳が聞こえないギョンミの“無音の世界”を観客に疑似体験させる音響効果、さらには両者が無人の町を全力疾走するチェイス・アクションなど、息もつけない怒濤の見せ場が連続。とことん狡猾にして冷酷非情なイケメン殺人鬼のキャラクターが恐怖を増幅させるいっぽう、絶体絶命の危機を幾度となくはねのけるギョンミの意外なしぶとさも驚きを呼び起こす。そしてクライマックス、あらゆる観客を欺くであろう鮮やかな“決着”を目撃してほしい。(映画ライター・高橋諭治)
週末に映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて!なお、緊急事態宣言下にある都道府県の劇場の一部では引き続き臨時休業を案内している。各劇場の状況を確認のうえ、足を運んでほしい。
構成/サンクレイオ翼