コメディからシリアスまで。総理が登場する映画と『総理の夫』が再現したリアルな政界シーン
42歳、史上最年少かつ日本初となる女性総理の誕生を描いた『総理の夫』(公開中)。愛する女性が内閣総理大臣に就任したことで “ファーストジェントルマン”となった男性の奮闘を描くヒューマン・コメディだ。総理の夫を体現した田中圭のコミカルな演技も絶妙だが、印象深いのは総理に扮した中谷美紀の凛々しい姿。高い理想に向かって邁進するリーダー像に胸が熱くなる。
これまで多数の映画に首相が登場してきたが、その描かれ方は実に様々。そこで今回は、首相が登場する近年の映画をピックアップすると共に、国会中継など忠実に再現されている『総理の夫』のリアリティについて紹介したい。
『記憶にございません!』の主人公は、史上最低の支持率をマークしたダメ総理!?
三谷幸喜監督作『記憶にございません!』(19)は、笑いのなかにも風刺に富んだドタバタ政界コメディだ。中井貴一が総理大臣の黒田啓介、妻の聡子を石田ゆり子、総理の秘書官をディーン・フジオカと小池栄子が演じているほか、草刈民雄、佐藤浩市などそうそうたる俳優が出演している。
史上最低の支持率をマークした黒田総理は、演説中に聴衆が投げた石が額に直撃して記憶を失くしてしまう。もともとの黒田は優柔不断で態度が大きく、人を見下す人物。女性を蔑視し、贈収賄疑惑について追及されても「記憶にございません」と知らんぷりを決め込む悪徳政治家だった。しかしそれら一切を忘れてしまった黒田はテレビに映った以前の自分の姿にショックを受ける。そして不倫関係にある野党第二党首との密会にあたふたしたり、不祥事のもみ消しが常態化している政界の現状に疑問を持ったり。また、ファーストレディである聡子との関係も冷え切っていた。
黒田の記憶喪失がトップシークレットになったことで、以前のままに接してくる周囲の人間とのギャップがシニカルな笑いを引き起こす本作。公私ともに崖っぷちに立った総理の一発逆転ドラマとなっている。
有事に直面し、首相は真のリーダーに『シン・ゴジラ』
庵野秀明が脚本・総監督を務めた『シン・ゴジラ』(16)は、『ゴジラ FINAL WARS』(04)から約12年ぶりに日本で製作された特撮怪獣ムービー。ゴジラは史上最大となる体長118.5m、国内シリーズとしては初となるフルCGで製作された。内閣官房副長官の矢口蘭堂を長谷川博己、内閣総理大臣補佐官の赤坂秀樹を竹野内豊が演じ、内閣総理大臣の大河原清次を大杉漣が気迫に満ちた演技で魅せている。
東京湾アクアトンネルの崩落事故が発生し、首相官邸で緊急会議が開かれる。当初政府は海上に挙がる水蒸気の原因を海底火山の噴火などの影響だと推測するが、ほどなく巨大生物によるものであることが発覚。正体不明の生物は大田区蒲田に上陸し、街に甚大な被害を及ぼしながら中心部へと侵攻してくるのであった。
総理である大河原は、未知の巨大生物の襲来にとまどいながらも、国の最高責任者としての責任を痛感してリーダーシップを発揮し始める。そして戦後初となる武力行使命令を発令するも、避難が遅れている者がいると知ると一切の攻撃を中止するよう命令。また、ゴジラの予想進路内に官邸が含まれたにも関わらず責任感から退避を拒否する発言をするなど、最後まで責任を全うしようとするリーダーとして描かれている。