お騒がせ名優メル・ギブソンの底力!『マッドマックス』から40余年…最新作は怒れるサンタ役
そんなギブソンは演じるだけでは飽き足らず、1989年にはアイコン・プロダクションズを設立。『ハムレット』(90)を皮切りに映画製作に乗りだした。93年には事故で醜い顔になった男と少年の絆を描いた主演作『顔のない天使』で監督デビュー。情感豊かな作品に仕上げ監督としても非凡さを発揮した。続く監督・主演の歴史スペクタクル『ブレイブハート』(95)では、作品賞、監督賞はじめ5部門でオスカーを獲得し、その実力を世界中に知らしめた。映画に出演したキャサリン・マーコックによると、ギブソンの演出は役になりきったあとは俳優に任せるスタイルで、俳優らしい組み立てといえる。映画作りの基礎についてはジョージ・ミラーやピーター・ウィアー、リチャード・ドナーの現場で学んだといい、特にミラーに影響を受けたと語っている。
その後ギブソンは、イエス・キリストの最後の12時間を描いた『パッション』(04)を発表する。その裏には厳しい私生活でのトラブルも絡んでいた。華やかな成功のいっぽう、ギブソンは90年代よりアルコールやドラッグに溺れ、暴力や暴言でもタブロイド紙を賑わせるようになっていく。熱心なカトリック教徒であるギブソンは聖書に救いを求め、その中で「キリストの受難」の映画化に行きついたという。監督に専念したこの作品では、新約聖書に基づいてイエスの姿をリアルなタッチで描写。史実を参考に、ラテン語とアラム語のみを使い英字幕をつけるというこだわりを見せつけた。ギブソンはマヤ文明の時代を舞台にした冒険談『アポカリプト』(06)でも全編マヤ語を使用。必要であれば残酷描写もいとわない描写へのこだわりやあくなきチャレンジ精神は、彼の作家性といえる。
私生活でのトラブルで、2000年代半ば以降は俳優活動が控えめになったギブソン。そんな彼は、『マーヴェリック』(94)で共演したジョディ・フォスター監督・主演の人間ドラマ『それでも、愛してる』(09)を機にふたたび第一線に戻ってきた。目の前で娘を殺された刑事を演じた『復讐捜査線』(10)では、復讐に燃えるベテラン刑事を気合い200%で演し完全復活をアピール。製作・脚本を兼任した『キック・オーバー』(12)では刑務所で大暴れするダーティな犯罪者を、『ブルータル・ジャスティス』(18)では良心と戦いながら墜ちていく老刑事を熱演。オックスフォード英語大辞典の誕生秘話を描く『博士と狂人』(18)で、戦争で心を病んだ元軍人と交流を深める言語学者役を演じていたのも忘れ難い。
今後もスコット・イーストウッド主演のアクション・スリラー『Dangerous』、マーク・ウォールバーグ主演の伝記映画『Stu』に新作スリラー「Hot Seat」ほか出演作が目白押し。自身の監督・主演で『パッション』の続編『The Passion of the Christ: Resurrection』の準備を進めるなど衰え知らず。さらに、サム・ペキンパー監督の名作西部劇『ワイルド・バンチ』(69)をリメイクする企画も進行中。年齢を重ねることで生まれる深みやみなぎる気迫で、若い頃とはまた違う魅力を放っているギブソン。波はあるものの、這い上がって闘い続ける彼の活躍を、これからも楽しみたい。
文/神武団四郎