生まれ変わった問題作『アレックス』を鬼才、ギャスパー・ノエが語る!「『STRAIGHT CUT』の方が観客の心に与えるダメージは大きい…」

インタビュー

生まれ変わった問題作『アレックス』を鬼才、ギャスパー・ノエが語る!「『STRAIGHT CUT』の方が観客の心に与えるダメージは大きい…」

新作を発表するたびに賛否両論を巻き起こし、過激な描写で世界中の映画ファンを挑発し続ける鬼才、ギャスパー・ノエ。いまから約20年前、彼がその名を世界中に轟かせるきっかけになったのが、3人の男女に起きたある一夜の“悲劇”を描く『アレックス』(02)だ。エンドロールの逆回しからスタートし、物語の結末から始まりへと時系列をたどっていく斬新な構成、主人公のアレックスを演じたモニカ・ベルッチが9分間にもおよぶレイプシーンに挑んだことも大きな波紋を呼び、2002年の第55回カンヌ国際映画祭に出品された際には、あまりの凄惨さに途中退席者が続出したという。

その問題作が再び日本のスクリーンに帰ってきた。しかも、時系列を正しい流れに構成し直した『アレックス STRAIGHT CUT』(公開中)として。はたして、この“逆転完全版”とも言える『STRAIGHT CUT』とオリジナル版では、どのような差異があるのか?オンラインインタビューに応じてくれたノエの言葉を借りながら、本作が作られた理由、時系列を変えただけで同じ作品を観た時に受ける印象が変わるおもしろさ、オリジナル版の製作秘話にも迫っていきたい。

“取り返しがつかない”一夜の悲劇を描く『アレックス』

まずは、ノエと『アレックス』について振り返っておこう。アルゼンチン出身で画家のルイス・フェリペ・ノエを父に持つノエは、子ども時代の数年間をニューヨークで過ごしたのち、1976年にフランスへと移住。短編『Tintarella di luna』(85)で映画監督デビューすると、馬肉を売る中年男と無口な娘との近親愛を題材にした中編『カルネ』(91)でカンヌ国際映画祭批評家週間賞を受賞した。同作で気鋭の監督として注目を浴び始めたノエは、その続編となる初の長編『カノン』(98)でも再びカンヌを沸騰させ、長編2作目『アレックス』では本国フランスで283館の拡大公開がされるや否や60万人を動員するスマッシュヒットを記録している。

その後も、TOKYOを舞台にしたサイケデリックな輪廻転生物語『エンター・ザ・ボイド』(10)やハードな性描写を自身初の3D映像で映しだした『LOVE 3D』(15)、誤ってLSDを接種したダンサーたちによる阿鼻叫喚の地獄絵図『CLIMAX クライマックス』(18)を発表。ショッキングで残酷な暴力描写も多いが、その唯一無二の作家性に惹き込まれる人が追随し、熱烈な支持を集めてきた。

炎に包まれる車の前で煙草をくゆらすノエを写した秘蔵写真
炎に包まれる車の前で煙草をくゆらすノエを写した秘蔵写真[c] 2020 / STUDIOCANAL - Les Cinémas de la Zone - 120 Films. All rights reserved.

そんなノエの代表作と言える『アレックス』のおもな登場人物は、アレックスとヴァンサン・カッセルが演じる彼女の恋人、マルキュス(当時、ベルッチとカッセルは実生活でも夫婦だった)、2人の友人でアレックスの元カレでもあるピエール(アルベール・デュポンテル)の3人。物語はこの3人がパーティに出かけ、一人で帰宅したアレックスがテニア(ジョー・プラスティア)という男性に強姦されて瀕死の重傷を負うというもの。


しかし、時系列が逆に進むオリジナル版では、ゲイクラブ「レクタム(=直腸)」から負傷したマルキュスが救急車に乗せられ、続いて手錠をかけられたピエールも警察車両へと連行される場面からスタート。その次に、クラブ内で激高したマルキュスが血眼になってテニアを捜す様子が映しだされ、彼に同行していたピエールが一人の男性を殺害してしまう。ちなみに、原題は『Irréversible』で日本語に訳すと“ひっくり返せない”や“不可逆”、“取り返しがつかない”という意味に。皮肉なことに、観客は時間を遡りながら事件が起きた要因を確認し、一度起きたことは覆すことができないという現実を突き付けられるのだ。

【写真を見る】ギャスパー・ノエ自らが手がけたこだわりの『アレックス STRAIGHT CUT』のポスタービジュアル
【写真を見る】ギャスパー・ノエ自らが手がけたこだわりの『アレックス STRAIGHT CUT』のポスタービジュアル[c] 2020 / STUDIOCANAL - Les Cinémas de la Zone - 120 Films. All rights reserved.

関連作品