オスカー俳優、ロベルト・ベニーニが黒歴史にリベンジ?『ほんとうのピノッキオ』で見せる哀愁が絶妙

コラム

オスカー俳優、ロベルト・ベニーニが黒歴史にリベンジ?『ほんとうのピノッキオ』で見せる哀愁が絶妙

1883年に発表されたイタリア児童文学の草分け「ピノッキオの冒険」は、寓話としてのおもしろさはもちろん、すぐれた冒険談として世界中で親しまれてきた。ディズニーの『ピノキオ』(40)をはじめ、何度も映像化されてきた名作の最新映画化作が『ほんとうのピノッキオ』(公開中)である。原作を尊重して制作された本作は、物語だけでなく原作が書かれた19世紀の街並みや貧しい人々の日常までリアルに再現。これまで主流だったファミリー向けエンタメ路線とはひと味違う、ダークな色合いの作品になっている。

ジェペットじいさんは1本の丸太から男の子の人形を作ろうとする(『ほんとうのピノッキオ』)
ジェペットじいさんは1本の丸太から男の子の人形を作ろうとする(『ほんとうのピノッキオ』)copyright 2019 [c]ARCHIMEDE SRL - LE PACTE SAS

そんな本作でひときわ存在感を放っているのが、ピノキオの生みの親、ジェペットじいさんを演じたイタリアのコメディ俳優、ロベルト・ベニーニだ。ジェペットと聞いてまず思い浮かぶのは、わんぱくなピノッキオに翻弄されるやさしく真面目な木工職人。ベニーニはそんなイメージを受け継ぎながら、より人間味あるキャラクターとしてジェペットを演じている。ひとり貧しさに耐える姿やピノッキオという息子を得た喜びなど、感情をかみしめるようなベニーニの枯れた演技の数々が、その後に彼らを待ち受ける波瀾のドラマを盛り上げた。

ジム・ジャームッシュとの出会いが飛躍のきっかけ!

実はベニーニにとって本作は2本目の「ピノッキオの冒険」の映画化作品。前回は2002年のイタリア映画『ピノッキオ』で、ここでは主人公のピノッキオを演じていた。つまり主人公とその生みの親、両方を演じた俳優ということになる。

ベニーニが演じるピノッキオもこれはこれであり!?(『ピノッキオ』)
ベニーニが演じるピノッキオもこれはこれであり!?(『ピノッキオ』)写真:EVERETT/アフロ

ベニーニは1952年10月27日生まれ、イタリアはトスカーナ出身。貧しい家庭に生まれたため10代よりサーカス一座で働いていた。この時の経験が、彼のショーマンシップの基礎を築いたと考えていいだろう。1972年にローマに移ると舞台やテレビで役者として活動を始め、持ち前の陽気なキャラクターとマシンガントークでコメディアンとして人気を博す。

刑務所で同房になった3人の男たちによる奇妙な友情を描く『ダウン・バイ・ロー』
刑務所で同房になった3人の男たちによる奇妙な友情を描く『ダウン・バイ・ロー』写真:EVERETT/アフロ

そんなベニーニに転機が訪れたのが1985年のこと。イタリアのサルソ映画&TV映画祭でジム・ジャームッシュ監督と出会い、彼の3本目の長編『ダウン・バイ・ロー』(86)にメインキャストで出演することになったのだ。ベニーニの役は、刑務所に収監された英語がほとんど話せないイタリア人。人なつこくて不器用で、お調子者のキャラクターはベニーニの十八番。コワモテの“先客”ジョン・ルーリーとトム・ウェイツを相手に、登場1分で笑いを誘う絶妙な間と言動で囚人たちのおかしな友情ドラマを盛り上げた。その後もジャームッシュの連作短編集『コーヒー&シガレッツ』(03)の第1話「変な出会い」(撮影は1986年)、オムニバス『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91)にそれぞれ主人公の役で出演。得意の話術で観客を魅了した。

ロサンゼルスやパリ、ローマでタクシードライバーと乗客たちの人間模様が繰り広げられるオムニバス『ナイト・オン・ザ・プラネット』
ロサンゼルスやパリ、ローマでタクシードライバーと乗客たちの人間模様が繰り広げられるオムニバス『ナイト・オン・ザ・プラネット』写真:EVERETT/アフロ

監督&主演作『ライフ・イズ・ビューティフル』でオスカー受賞の栄光に輝く

国際的に活躍するようになったベニーニが、名実ともにスターの仲間入りを果たした作品が監督&主演作『ライフ・イズ・ビューティフル』(97)である。父の幼少時代の体験をモチーフにしたこの作品で、ベニーニは妻子と共にホロコーストに送られるイタリア系ユダヤ人を熱演した。サイレント喜劇を思わせる得意のドタバタ調の前半から、収容所での日々を綴ったもの悲しい後半まで、常に希望を信じる主人公を演じ、イタリア語作品にもかかわらず第71回アカデミー賞で主演男優賞を獲得。作品も外国語映画賞(現、国際長編映画賞)でオスカーに輝いたほか、第51回カンヌ国際映画祭審査員グランプリなど多くの受賞を果たし、俳優、監督として国際的な評価を固めた。

『ライフ・イズ・ビューティフル』でベニーニは、妻子と共にホロコーストに送られるイタリア系ユダヤ人を熱演した
『ライフ・イズ・ビューティフル』でベニーニは、妻子と共にホロコーストに送られるイタリア系ユダヤ人を熱演した写真:EVERETT/アフロ

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