北村匠海主演『明け方の若者たち』、園子温の原点回帰作『エッシャー通りの赤いポスト』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、カツセマサヒコ原作で若者たちの些細な日常と葛藤を描くドラマ、園子温がインディーズ映画に回帰した青春群像劇、両親の離婚と父の性転換を10代の少女の目線で描きだすヒューマンドラマの、感情移入させられる3本!
学生から社会人へと移行していく瞬間にも独特の輝きがある…『明け方の若者たち』(公開中)
希望の職種とは違う部署に回された新生活。学生の頃、思い描いていた未来とは程遠い現実を突きつけられ、恋人と友だちだけが心の支えになっていく。多くの人が社会人一年目に味わうであろう“こんなハズじゃなかった人生”。ここにいる北村匠海はほかの誰でもない、“僕”のことだとハッとする人も多いのでは。お金はなくとも時間だけはたっぷりあった学生から、時間に追われる社会人へ。まっただなかにいる本人たちはもがき、苦しくとも、その移行していく瞬間にも独特の輝きがある。実際に明け方の高円寺で時間とせめぎあいながら、撮影したというマジックアワーの映像が切ないほど、まぶしい。『ホリミヤ』の松本花奈監督は役者、特に男の子たちのなにをしているわけでもない、日常のようなひと時を実に自然に切る取る。ここでも北村匠海と親友役の井上祐貴のアドリブなのか、なに気ない、些細なやりとりが愛おしい。それにしても本来ならぞっとするほど、残酷なことをしている“彼女”役の黒島結菜がまるで憎めない。さすが次期朝ドラヒロイン。(映画ライター・高山亜紀)
純度100パーセントの園子温ワールド…『エッシャー通りの赤いポスト』(公開中)
心筋梗塞による死の淵から生還した鬼才、園子温監督が、ハリウッド映画デビュー作『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』(21)の製作延期でできた時間を使い、自らのワークショップに参加した51人の無名の役者たちと撮り上げた“原点回帰”とも言える群像劇。鬼才カリスマ監督の新作オーディションに参加した様々な事情を抱えた人たちの思惑や生き様が重層的に描かれるが、そこでは自主映画時代の『俺は園子温だ!』(85)や『男の花道』(86)、『自転車吐息』(90)のころの疾走感ととてつもないエネルギーが炸裂!『ヒミズ』(11)や『地獄でなぜ悪い』(13)を始めとした過去作を想起させるシーンが随所に散りばめられ、『冷たい熱帯魚』(10)の吹越満、諏訪太朗、渡辺哲が再び集結しているのも見どころだ。そして、園監督の地元、豊橋の商店街を借り切って撮影されたクライマックスでは、キャスト全員が「我こそが本作の主人公だ!」と言わんばかりのすごい熱量で激突!その様子を縦横無尽に動き回るカメラがとらえ、大きなうねりをあげながら渋谷の園作品の“聖地”へと突き進むのだからたまらない。これぞ、純度100パーセントの園子温ワールド! 誰かに頼まれて作るのではない、映画本来の生まれ方を思い出させてくれる濃密怒涛の146分になっている。(ライター・イソガイマサト)
“普通”という言葉に支配されていることに気づかされる…『パーフェクト・ノーマル・ファミリー』(公開中)
サッカーが得意な11歳の少女エマは、両親が離婚すること、これまでサッカーを教えてくれた大好きなパパが、これからは女性として生きていくと知らされ、衝撃を受ける。ホルモン治療で少しずつ女性らしくなっていくパパを、エマはどうしても認められず…。マルー・ライマン監督自身の実体験をもとに、90年代のデンマークを舞台に、エマの目を通して一家のドラマが映しだされる。
時に頑な過ぎて相手を傷つけるエマに辟易しつつ、いきなり自分が住んでいた世界が壊れる恐怖や混乱がリアルに伝わる。時折ドキュメンタリーのような息遣いを感じるのは、手もちカメラでの撮影や距離感だけでなく、エマ役の女優の上手さだろう。傷つき夫を責める妻/母の気持ちも、パパの苦しみ、勇気、変わらぬ家族への愛情も痛いほどわかる!激しい葛藤とジタバタの末に、大好きな親も自分とは別人格であり、互いに意思や価値観は尊重されるべきであること、互いの愛情は変わらないことを理解し、認め、成長していくエマを応援せずにいられない。いまさら90年代を描く意味や、キャスティングの批判もあると聞く。だが「誰もが自分らしく生きやすい世界」への理解を促してくれる作品だと確信する。同時にいま、いかに“普通”という言葉が自己中心的かつ独善的に認識/使用され、強迫観念のように我々の世界を支配しているかにも気づかされるのだ。(映画ライター・折田千鶴子)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて!
構成/サンクレイオ翼