『ハウス・オブ・グッチ』で紐解く“ブランドの元祖”GUCCIの歴史。リアルは、オペラよりドラマティックなり - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
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コラム 2022/1/14 7:30

『ハウス・オブ・グッチ』で紐解く“ブランドの元祖”GUCCIの歴史。リアルは、オペラよりドラマティックなり

パトリツィアの登場と外部デザイナー導入による変革

そのころのグッチ家に登場した一人の女性、パトリツィアは、そんな煌びやかさに目が眩んだに違いない。時代の背景とも相まって、彼女は一族とGUCCIブランドに多大な影響を与えていくのだが、物語のターニングポイントとなる重要な場面でも、ブランドの象徴であるロゴが散りばめられたルックを着用しているのだ。サブリミナル効果のようにGUCCIというブランドが印象付けられる仕掛けになっているので、ぜひ注目してほしい。

その美貌と知性を活かしマウリツィオと結婚したパトリツィアは、やがてグッチ家の権力争いに介入
その美貌と知性を活かしマウリツィオと結婚したパトリツィアは、やがてグッチ家の権力争いに介入写真:SPLASH/アフロ


1980年代の莫大な売り上げと引き換えに、GUCCIは、ラグジュアリーブランドの最も大切な要素の一つである、特別さを失っていく。一族も、ブランドも、誰もが過去の“栄光”にすがって、取り戻そうともがくなか、時代とファッションというのは酷なまでに“移り変わっていく”もの。変わらない、というのは、その終焉を意味するからだ。1990年になるころには、GUCCIもその変化を否応なしに求められ、幸か不幸か、家族経営から、コングロマリットや外部のデザイナーを導入するようになっていた。トム・フォードが、GUCCIのクリエイティブ・ディレクターに就任したのは1994年のこと。

1980年代の最盛期以降、徐々にその栄光に陰りが見え始めたGUCCI
1980年代の最盛期以降、徐々にその栄光に陰りが見え始めたGUCCI[c] 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

残ったのはプライドだけだった時期に、アメリカ人、特にテキサス州出身の無名の若きデザイナーを採用しようとしたGUCCIの苦悩は想像に難くない。しかし、そのときのGUCCIの輝かしい返り咲きのカムバックは、現代のファッション史に永遠に刻まれた。パトリツィアとマウリツィオを中心としたグッチ家の物語は、このころからまったく別の道を行くことになるが、ブランド、GUCCIとしては、ファッションハウスとしての輝きを取り戻していく。

革命を起こした歴代クリエイティブ・ディレクターたち

少し専門的な話をすると、フォード時代のGUCCIが、最高にセンセーショナルだったのは、セクシーをファッションとして身に纏うという概念を取り入れたからである。その後2006年から、クリエイティブ・ディレクターを務めたのは、フリーダ・ジャンニーニ。ジャンニーニ時代のGUCCIは、いろいろなものが錯雑していく時代と比例するかのように、セクシーからセンシュアルといった、これまでの伝統やフォードの作ったものを、より多面的に時代を捉えて魅力を伝えるコレクションを展開していった。時代が急速に早いスピードと進み始めたミレニアルにおいて、退任するまでのおよそ10年間、ファッションの前線で結果を残すことは容易ではなく、フリーダの功績は小さくないのだが、ファッションハウスの使命というのは、やはり常に特別性、唯一無二さと斬新さを提供するところにある。その過渡期の2015年、現在のクリエイティブ・ディレクターであるアレッサンドロ・ミケーレが、そのポジションに就任する。

2006年からクリエイティブ・ディレクターに就任した、フリーダ・ジャンニーニ。ブランド初の女性用香水やカラーコスメを発表
2006年からクリエイティブ・ディレクターに就任した、フリーダ・ジャンニーニ。ブランド初の女性用香水やカラーコスメを発表写真:SPLASH/アフロ

ハウス・オブ・グッチ』が世に出た2021年は、GUCCI創業から、ちょうど100年。紆余曲折あったとしてもブランドのレガシーをいつになく強調できる年だ。ミケーレGUCCIは、彼が発表した最初のコレクションから、時代をうまく反映したジェンダーフリュイドさや、ファッションのいびつさをスタイリッシュに表現するところに定評がある。彼は、社会や流れを読む能力に長けており、魅力的なコラボレーションや話題を生むことが非常に上手だ。しかし、単に現代に合う最適な「ファッション」を、あっという間に消費される「トレンド」にしないで、GUCCIというファッションハウスの真髄と魅力を理解しているデザイナーであると思うのだ。


ダイアナ妃が愛したバンブーハンドルのバッグを、ミケーレが再解釈したハンドバッグライン「Gucci Diana」
ダイアナ妃が愛したバンブーハンドルのバッグを、ミケーレが再解釈したハンドバッグライン「Gucci Diana」画像はGucci Official(@gucci) 公式Instagramのスクリーンショット

本作の中核である年代に、世界を席巻したダイアナ妃が愛したバンブーハンドルのバッグは、「Gucci Diana」として、ジャクリーン・ケネディ(=ジャッキー・オナシス)が愛したバッグが、「Jackie 1961」として、皮革製品としてのブランドの歴史を感じさせ、グッチ・ローファーにも採用されているホースビットを据えた、「Gucci Horse Bit 1955」バッグラインとして。モダンに再解釈および再構築して、あらゆる角度からGUCCIを魅惑的に再び世に送り出す、温故知新の天才ミケーレは、本作をどう思うのか。彼やケリング(現在、グッチを“所有”するコングロマリットグループ会社)のかかわりをあえて言葉にするのは、野暮、いや、ファッショナブルでないにしても、これもブランディングの一つと考えるほうが、世の中が豊かで優美に思えるではないか。

GUCCIが単に派手なブランドと嫌煙していた方も、ファッションに興味のない方でも、ご心配なく。ファッションのヒストリームービーとしても、別の角度から2度おいしく楽しめる本作だけれども、ドライバー、アイアンズ、パチーノ、レト。そして、2022年の賞レースでもその名が続々とノミネートされ始めているレディー・ガガなど、彼らの演技の迫力だけでも、充分にスクリーンに魅せられる作品となっている。

ロンドンプレミアに登場した豪華絢爛な実力派キャストたち
ロンドンプレミアに登場した豪華絢爛な実力派キャストたちGetty Images for Metro-Goldwyn-Mayer Studios and Universal Pictures

文/八木橋恵

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