M.ナイト・シャマランの“映画術”が明らかに!『オールド』メイキング映像からひも解く、シャマラン・ワールドの創り方
そんなシャマラン演出の神髄が味わえるのが、4種のメイキングドキュメンタリー集だ。シャマランを中心にスタッフ、キャストのコメントや制作風景をカテゴリー別にまとめた、いわば「シャマラン式 映画術」である。
不穏なビーチのロケーション
シャマランは、『翼のない天使』(98)の頃から自身の住むフィラデルフィアを拠点に撮影を行ってきた。しかし海に囲まれたリゾートを舞台にした今作は拠点を離れ、カリブ海に位置するドミニカ共和国エル・バジェのビーチで撮影が行われた。
美しいロケーションを不穏な空気が漂う牢獄へと変えているのが、ビーチと外の世界を隔てた赤茶けた岩壁。撮影にあたり、海辺から30メートルの位置に高さ7メートル、長さ270メートルの岩壁を実際に造ってしまうこだわりは、いかにもシャマランらしい。撮影をしたのは2020年の秋。新型コロナウイルス感染症やハリケーンの影響で撮影が中断してしまったとしても、保険が下りないという状況のなかでのスタート。そして、あいにくハリケーンによって岩壁が壊れ、位置を変えての作り直しも強いられた。そんなギリギリの舞台裏もメイキングで克明に紹介されている。
華麗な映像テクニック
カメラワークや多彩なポジションからの撮影など、凝った画づくりで知られるシャマラン。メイキングのなかでは、黒澤明監督からの影響を『羅生門』(50)や『乱』(85)を例に語っている。ビーチでのロケーションで多用しているのが移動撮影で、様々な角度からビーチや動きまわる人々を捉えることで、個性の弱い砂浜という舞台から多彩な表情を切り取ったということだ。
ほかにも、作品のポイントである過ぎゆく時間の流れを表現するための撮影法などについてメイキング映像を交えて紹介。シャマラン作品に欠かせないファクターである“恐怖”について、それ自体を目的としたホラー映画との違いに言及するなど、自らのスタイルやスタンスに関する解説も聞き応えたっぷりだ。
家族という普遍的テーマ
シャマランのフィルモグラフィを見ると、どれも“家族”がテーマのなかの重要なポジションを占めていることがわかるだろう。平凡な一家が、唐突な“老い”を突きつけられる『オールド』も本質的なテーマは家族である。
そもそも本作は、シャマランが娘たちから原作本をプレゼントされたのが発端だったそう。メイキング内では、子どもたちの成長の早さに対する自身の驚きや、老いていく両親の姿をモチーフにふくらませていったと語る。さらに、過去に手掛けた作品に登場した子どものキャラクターも娘たちの成長に合わせて作っていたという新事実も明かしており、インタビューを見ながら、あらためてシャマラン作品を見返したくなってくる。
先述したように、本作では家族と離れドミニカで撮影を決行したシャマランだったが、第2班監督を、なんと次女のイシャナ・シャマランが務めており、長女で歌手のサレカ・シャマランは劇中に楽曲を提供しているのだ。これまでとは違った意味で家族を身近に感じた現場だったようで、撮影の終盤にはドミニカに家族が集結した姿もメイキングに収録されている。
従来のBlu-ray+DVDのパッケージに加え、4K ULTRA HD+Blu-rayでも発売となった本作。フルHDの約4倍の解像度を誇る4K ULTRA HDでは、砂粒まで鮮明に再現された高画質に加え、時に神経を逆撫でする波の音など音響効果も体感的に味わえる。いずれのバージョンにも特典映像が多数収録されており、2度、3度と繰り返し観ても発見の多いシャマラン作品を楽しむにはぴったりのパッケージだ。ぜひともこの機会にお好きなバージョンを手に入れて、シャマラン・ワールドに浸ってみてほしい。
文/神武団四郎