声優、映画パーソナリティ、感染症医らのコメントからひも解く…いま『鹿の王 ユナと約束の旅』を観るべき理由
血のつながりを超えたヴァンとユナの絆に心揺さぶられる
本作はストーリーの魅力もさることながら、個性豊かなキャラクターたちも魅力の一つだ。映画パーソナリティ(映画評論・映画解説/心理カウンセラー)の伊藤さとりは、「孤独な男の心を溶かすのは幼子の小さな手。血のつながりに捕われることなく大地とのつながりまでも全身で感じられる壮大なファンタジーが誕生。捻りの効いた医療ファンタジーとしても次世代に届けたい問題作だ」と、主人公ヴァンと少女ユナの関係性について言及。
謎の病のカギを握る血のつながりのない父娘に待ち受ける“過酷な運命”と、それに立ち向かう2人の“絆”は本作最大の見どころであり、心揺さぶられるポイントと言えるだろう。ほかにもヴァンと天才医師ホッサルとの関係性など、それぞれのキャラクター同士から様々な絆が垣間見える。コロナ禍で人間関係が希薄になりがちないまと比べると、人との関わりの大切さがより深く伝わってくるのだ。
精微なアニメーション表現はまさに日本最高峰
日本のトップアニメーターである安藤監督は本作で、作画監督とキャラクターデザインも担当している。異国情緒あふれる非現実的な世界観でありながら、どこかリアリティも感じる映像表現が魅力的だ。『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』など安藤監督がこれまで手掛けてきた作品からもその魅力は感じ取れるが、本作ではさらに安藤監督のこだわりが如実に表現されている。アニメ関連のライターをしている本稿の筆者は、安藤監督の映像表現についてこのように感じた。
「主人公たちが旅をするなかで登場する国ごとの文化の違い。広大な自然の美しさと相反する仄暗い病の恐怖。そして、タイトルにもなっている“鹿”を含めた動物たちの細やかな動き。そのすべてがアニメーションで精微に表現されている。画面の隅々まで目を配らせ、その圧倒的な映像美に酔いしれたい」
安藤監督の手腕はもちろんのこと、ハイクオリティなアニメーション作品を世に送り出し続けるProduction I.Gの制作力も相まって圧倒的な表現が生まれているに違いない。近年、多くのアニメ映画が話題になっているが、そんななかでも本作の映像表現はまさに“日本最高峰”と言っても過言ではないだろう。ぜひ映画館の大きなスクリーンでアニメーションの美しさを体感してほしい。
構成・文/阿部裕華